最近アート思考に関するセミナーあるいは解説した記事などがあちらこちらで見られるようになりました。
その中で気になったのが、アート思考が「『論理(ロジカル)思考』『デザイン思考』の次のものとして注目されている」とか「デザイン思考の次はアート思考」いった表現がしばしばなされていること。
時には「アート思考はデザイン思考を超える」とか「デザイン思考の時代は終わり」のようなことを言う人もいて、ここまで来るとわけがわかりません。(笑)

アートとデザインの違いとは

そもそも、論理思考(ロジカルシンキング)、デザイン思考(デザインシンキング)、アート思考(アートシンキング)を比較する、という発想自体が間違いであって、家を建てるのに、金づちと鋸とカンナとではどれが大事でしょう?とか、鍋とヤカンと電子レンジのなかで、どれが一番役立ちますか? というのと同じことだと思います。

また、アート思考が0→1で、デザイン思考が1→10という表現も多くみられますが、これも正確ではないと思います。後程触れますが、デザイン思考はユーザー起点であるので、今ある商品の改善や改良が多いから1→10とみられることが多い、アート思考は自分起点であるから0→1と考えられていることかと思います。
しかしアート思考に関する研究によれば、アーティストも今までの知見や作品、経験などを基に新たな発想を得ているので、「無から有が生まれるのがアート」というわけではないのです。それまでの経緯を知らない他人から見れば、0→1に見えるのにすぎない、というのが本当のところでしょう。

では、アート思考とは何か?デザイン思考とは何が違うのか?

アート思考あるいはアートシンキングに関しては、まだきちんとした「定義」が確立されていません。そのためその用語を使用している人や組織によって「定義(らしきもの)」がいろいろある状態です。(私自身が書いていることももちろんそのうちの一つです。)
ここでは、論文や国際学会のConference Paperに書かれて発表されたものを「定義」として採用することにします。

一橋大学イノベーションセンター長の延岡健太郎教授が、2016年にPICMET (Portland International Conference on Management of Engineering and Technology) のカンファレンスで発表された資料によれば、アート思考とデザイン思考の違いについて、次のように記されています。

アート思考の目的は「クリエイター(アーティスト)のアイデア、感情、信念、哲学の表現」です。一方のデザイン思考では「(顧客の為に)必要な機能の開発」となっています。
これは上でも記したように、自分が起点となるアート思考と顧客起点のデザイン思考の差です。

また、デザイン思考は顧客からの要求(リクワイアメント)が、完成品の達成基準ですので、プロトタイプづくりを重ねて、その水準に達するまで作業が続きます。しかしアート思考の場合は、「自分(達)自身」が本当に満足するまでそれは完成されません。
つくり方においても効率性よりも、「こだわり」を重視する傾向にあります。

例えばアート思考を実践していると言われている「マツダ」では、車づくりでクレイモデラー(粘土職人)によるモックづくりが行われています。
かつては、このやり方はどの車メーカーでも行われていたのですが、現在では3D-CADなどコンピューター画面上で設計が行われています。
しかしマツダではその最新の設計手法と並行して、昔ながらの粘土によるモックづくりも行われています。大量生産のなかでも「職人の技」、「マス クラフトマンシップ」を意識したものづくりが行われています。


もちろんマツダでも、綿密なユーザー調査など「デザイン思考」的な手法も行われています。
アート思考に基づく車づくり設計(デザイン)が行われているからと言って、自分勝手なものづくりをしているとか、顧客中心(人間中心)設計をやめているわけではありません。

上にも書いたように、そもそも顧客中心設計(デザイン思考)と、自分たちのアイデア、感情、信念、哲学の表現に基づく設計(アート思考)は相反するものではありません。否、今の時代両方とも必要なもの(思考)であることは、お読みになっている方ならすぐにご理解いただけると思います。

「アート×デザイン」思考

そして、必要なのは「アート思考」+「デザイン思考」といった足し算ではなく、掛け算「アート思考」×「デザイン思考」あるいは「アート×デザイン」思考です。

なぜ足し算ではなくて、掛け算なのか? 下図をみれば視覚的にわかるのではないでしょうか?

デザイン思考は、あくまでも顧客中心で、そのためにはどういった設計をすべきか、ユーザーに「共感」し、課題を洗い出して解決のための「定義」付けを行って、アイデアだしとプロトタイピングを繰り返します。

一方アート思考は、自分たちがどんな製品を創りたいのかを考え、「自分たちらしい」イノベーティブなアイデアを考えていきます。また製品づくりにもそれが反映されます。

この2つを掛け合わせることによって、他にない唯一無二の製品やサービスを創り出すことが可能になります。

尚、この2つを掛け合わせるために具体的にどうすればいいか、どのように考えるかについては、今論文を書いているところですので、時期がくれば発表できるかと思います・・。(時期はまだ未定。^^;)