なぜ美術鑑賞がブームなのか?

「なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?」(岡崎大輔著 SBクリエイティブ)や「世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること」(ニール・ヒンディ クロスメディアパブリッシング)といった本の刊行が最近続いています。

これらの本によれば、「いま世界のエリートと呼ばれる人たちは、人生や仕事で役立つ能力を伸ばすために美術館賞を行っている」といいます。また最近注目されているのは、起業やビジネスの成功とアートや芸術との関係で、例えばスティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学を中退したのちも、カリグラフィーを学んで、それがマックのデザインに生かされたことは有名な話ですし、後者の本によれば、ユニコーンと呼ばれる資産評価額が10億ドルを超える非上場企業のうち、21%の企業の創業者が、アート・デザイン・音楽といったクリエイティブなバックグラウンドを持っているそうです。

スティーブ・ジョブズとアインシュタイン、レオナルド・ダヴィンチといった偉人にはある共通点があり、それは「領域や専門性を超えた発想や考え方」だそうです。ダヴィンチは画家としてだけでなく、医学や工学にも精通していた。またアインシュタインも「偉大な科学書とはアーティストである」と語ったほどアートは重要視しており、「多くの偉業は知識ではなく想像力によってもたらされた」と述べています。

対話的鑑賞法(Visual Thinking Strategies)

アートを専門とする人を除けば、美術鑑賞は趣味の領域で楽しむ人が多いでしょう。あるいはアートというと「一部の人に与えられた才能」とか「成功者の道楽」といった印象が強いかも知れません。
かつては美術鑑賞というと、美意識や感性、右脳を刺激するもので、ビジネスなどに必要なロジカルシンキングなど左脳は全く使わない、と考えられてきました。
また、美術館や学校の美術鑑賞で教えられることというと、アート作品が生まれた歴史背景(バロックとか印象派とか等)や作者についての「知識」を学ぶことでした。

そこに一石を投じたのが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のフィリップ・ヤノウィンです。MoMAは、顧客のアンケート調査などから、鑑賞者はアート作品の知識ではなく、その「知識を活用するか」に関心が深いことがわかりました。そして心理学者などとのディスカッションの末生み出されたのが、Visual Thinking Strategies(対話型鑑賞法)です。

ヤノウィンはMoMA退職後、VTSを学校など教育現場に広げる活動を続けています。
子供たちへVTSを実施した結果、1年に10回を子なった子供たちには、明らかな成果が見られるそうです。
それは、1)観察力 2)批判的思考力 そして3)言語能力(コミュニケーション)です。

ヤノウィンが書いた「学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ: どこからそう思う?」(淡交社 )によれば、VTSを受けた子供たちは、美術ばかりか、数学や英語(国語)など他の教科の成績もよくなったそうです。
確かに上記の3つの能力は、「読解力」「論理的思考力」を高めることになるので、国語ばかりか、数学の力がつくこともわかるかと思います。
また、社会を見る力、あるいは生物・物質問わず観察する力は、社会や理科の成績を上げることにもつながる。
つまり、VTSはあらゆる教科の勉強に役立つ、それらのベースになる力を育むことがわかるかと思います。

ここで疑問に思われるのは、どうして「対話型鑑賞法」が、上記のような力、あるいは論理的思考力を育むのかと言ことではないでしょうか?

いうまでもないことですが、単に美術館に行く、あるいはアート作品を眺めるだけでは、これらの能力を伸ばすことはできません。
あくまで、正しいやり方でVTSを行わなければならないことが前提になります。

論理的思考とは

論理的思考とは「プログラミング的思考とは、論理的思考+システム思考」にも書いたように、「物事はどのような構成要素で成り立っているか、分析し物事を理解するための思考法」です。

物事は何を根拠に成り立つのか、その根拠とは何か。上図のように説明できるのが、「論理的思考」です。例えばプレゼンでするとき、相手を説得するときに、この「意見」は「理由1」「理由2」で成り立っている。と言える話し方が論理的な話し方になります。
ここで大事なのは2つだけです。「理由」が「物事」に対し、「Why So」「So What」の関係になっているか、「理由1」「理由2」は「物事」を分解したときに「MECE」の関係にあるか。
「話が伝わらない。」「何を言っているかわからない」「論理の進め方が強引」などと思われるときは、この2つのいずれか、あるいは両方ができていない状態を言います。

今まで日本は「以心伝心」「ハイコンテクスト」の文化でやってこれたので、あまり「論理的思考」は重視されませんでしたが、国際化が当たり前の時代、物事を論理的にとらえる、論理的に考え話す、というのは大事な思考法です。
これは来年度から小学校にも導入される「プログラミング的思考」が「論理的思考」をベースにしていることからもわかるかと思います。

VRSIで、論理的思考を高める

VTSI(Visual Thinking Strategies for Innovation)は私たちが開発したイノベーションための対話型鑑賞法」です。
ヤノウィンのVTSや、多くの美術館等で行われている「対話型鑑賞法」がファシリテータの主導で進められるのに対し、VTSIはアート鑑賞を通して自分たちで構造化を行うもので、特にイノベーションの力を育むことを目的としています。

VTSIの詳しいやり方についてはこちら

上図で、WhyとWhat、WhatとHowは、それぞれがWhy So? So What?の関係にあることがわかるでしょうか?
たとえば、What(何を感じ、どんな解釈をしたか)の右から2番目の、「昼と夜が共存している」は、なぜそのような解釈をしたかというと、その下の「空は青空」「地上は夜」という絵に描いてあることから、「昼と夜が共存している」という解釈が導かれていることがわかります。これがどちらか一つだけでは、このような解釈は導かれない。つまりMECEではない、ということがわかります。
もちろんVTSIでは、ダブりがあっても構わないのですが、そういう場合は、親和図法などでグルーピングして整理してみよう、ということでMECEにすることができます。

このような作業を通じ、観察力が磨かれ、物事を論理的に考えることができるようになります。