アプリシエイティブ・インクワイアリーとは

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)とは「デザイン思考はプロダクトデザインだけでなく組織デザインもセットで」でも触れたホール・システム・アプローチの手法の一つです。ここでは、AIについての概要とやり方(手法)について記したいと思います。
フレデリック・ラルー著の「ティール組織」でも「存在目的(組織の理念)」を自己組織化的に定める手法として紹介されているので、AIの名前だけは知っている、という方も多いと思います。

ホール・システム・アプローチとは、組織全体(Wholeness)をひとつのシステムと捉えて取り組むことを言います。したがってこの手法をマスターするには、システム思考・デザイン思考への理解が必要になります。
このホール・システム・アプローチの手法として有名なものに「ワールドカフェ」「オープン・システム・テクノロジー(OST)」があります。どちらも組織の人たち(参加者)の意見や思考の共有や集約をおこなうためのものです。ワールドカフェはテーブルを移動しながら様々な人たちと話し合いを行い、意見や思考の共有に重点を置いた手法で、オープン・システム・テクノロジー(OST)は、関心のあるテーマごとに話し合いを行い、その過程や結果で出された提言やインサイトごとにまた集まって話し合い(ダイアログ)を行って、意見の集約を目指す手法です。
「共有」「集約」とは参加者の相互作用を指します。参加者の思考はこれらの手法の過程で「自己組織化」し、ひとつにまとまろうとします。これがホール・システム・アプローチと呼ばれる所以です。
一方のアプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)は参加者のマインドやハートに訴えて共通の夢や目標に向かって一体感を高める手法です。個人個人が考えていること、夢や目標を発見(Discover)し、それを基に組織としての夢(Dream)を共有し、その夢や目標に向かって設計(Design)や実行(Destiny)をします。

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)の特徴

AIの特徴として、ポジティブ心理学に基づいていることが挙げられます。一般に経営や組織の話し合いは、組織の問題点や課題に目を向けて、それをどうすれば解決できるだろうかという観点から行われます。このときに使われる思考法が、論理思考(ロジカルシンキング)で、組織や業務プロセスを分割し、どの部分に問題点があるか特定し、その問題点を改善したり場合によっては排除します。
マッキンゼーなどのコンサルタントはほとんどがこの手法で企業の課題解決に取り組み成果を上げています。
しかしこの手法は、問題や課題が複雑に絡み合っているときはその課題解決が簡単にはできないという欠点があります。またその問題や課題を特定できたからと言ってその組織がよくなる保証はありません。「○○さんが悪い」「××部のせいで会社が悪くなった」とお互い相手を批判する材料になったりすることもあります。

AIは、組織の悪いところに目を向けるのではなく、よいところそして「なりたい姿」に目を向けます。
例を挙げると、ある組織で顧客からのクレームが増えているという課題が持ち上がったとします。「サービス体制のどこに問題があるのか」とか、場合によっては「誰が悪いのか」ということについて議論するのが多くの場合とられるやり方です。AIではそういったところに目を向けるのではなく、「どうすればもっとよいサービスができるのか」あるいは「感動を与える顧客体験とは何か」といったテーマに目を向けます。

AIの特徴をまとめると次の2点になるかと思います。
・個別の問題個所ではなく組織全体(Wholeness)に目を向ける。
・課題点問題点の精査より、ありたい姿、目標、夢について共有し、その実現のためのデザインを行う。

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)の手法(やり方)

AIのプロセスは、発見(Discover)、夢(Dream)、設計(Design)、実行(Destiny)の4つのフェーズに分かれます。それぞれの頭文字をとって、4-Dプロセスと呼ばれます。
そして、最初にどんなトピックについて話し合うのかを定めます。これをアファーマティブ・トピックと言います。

発見(Discover)

Discoverプロセスでは、各々の過去、現在、未来について話し合いをします。
例えば2人1組となり、お互いをインタビューするというやりかたが行われます。
そして、アファーマティブ・トピックに関することで、過去で最高だった体験、それがこの組織で実現した未来はどんなものか、どんな気分でいるかなどについてお互いインタビューします。
そして、数名(5~10人くらい)でひとつのグループを創り、インタビューを行った者はそれを発表しグループで共有します。

夢(Dream)

Dreamプロセスでは、Discoverプロセスで共有した各々の未来の姿に基づいて、組織の「夢や目標が実現した姿」を創ります。
その場合具体的にストーリーを創ります。
例えば「感動を与える顧客体験」がアファーマティブ・トピックであれば、実際に顧客(役)に登場してもらって、感動を与えているシーンを演じてもらいます。
最後にグループごとに発表をしますが、シナリオを創って「スキット(劇)」で演じたり、絵やコラージュで表したり、見る人が具体的で印象が残る方法でそれぞれ発表します。

設計(Design)

次にDreamに向かってどんなことをするか、デザインします。具体的にはデザイン思考の様々な手法がここで使われます。
最終的に、どのようなデザインをするのかを文章でまとめますが、これをプロボカティブ・プロポジション(刺激的な声明文)と言います。

実行(Destiny)

デザインに基づいて実行するフェーズです。誰が何をするのか、計画を立ててシステムエンジニアリングの手法で実行するか、自己組織化的に進めていくか、テーマや組織によってあった手法で進めていきます。

デザイン思考、システム思考との融合

AIのワークショップの講習などでは、4つのプロセス(4-Dプロセス)のうち、DiscoverとDreamのフェーズに力を入れて行うことが多いようです。DesignフェーズでもDreamの結果を受けて、すぐプロボカティブ・プロポジション(刺激的な声明文)の作成に取り掛かる、といった形をとります。
企業理念の策定のような、このようなプロセスでも十分なケースもありますが、実際の組織ではこのDesignとDestinyのフェーズも非常に重要なことは言うまでもありません。
そのためには、デザイン思考の手法やシステムエンジニアリング(SE)の手法についても知っておく必要があります。
私たちは、システム思考、デザイン思考(プロダクトデザイン)、AIなどの組織デザイン(ホール・システム・アプローチ)をセットでおこなうワークショップを実施する等その必要性を訴えています。