デザイン思考の手法のひとつにブレインストーミング法(ブレスト)があります。おそらく多くの人が名前を聞いたことがあるし、実際にやったことがある人も多いと思います。

ブレインストーミングとは

ブレインストーミングは、アレックス・オズボーンにより考案された会議手法です。1953年に刊行された「Applied Imagination(独創力を伸ばせ)」で紹介されました。
それによれば、ブレインストーミングとは、「集団でアイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法」です。

だいたい数名(5~7名)で、一つの議題に題し、多くのアイデアを自由連想で出していきます。新しいアイデアを発想したり、今までにない考え方を出すのによい方法と言われています。

ブレインストーミングの4原則

川喜田二郎東京工業大学元教授の「発想法」によれば、ブレインストーミングには4つの守るべき注意があると言います。
その4つとは「他人の意見の批判をしない。」「自由奔放に意見を述べよ。」「できるだけ大量のアイデアを出せ。」「他人の意見をうけてさらにそれを発展させる。(結合)」です。

最初の3つは、問題や課題をめぐって、できるだけ多方面、多視点からみる。問題探索の範囲を広げるということです。問題や課題に「関係がある」情報だけでなく「関係があるかもしれない」情報までを集めようという精神に沿わなければなりません。そして、正しいかどうか、役立つかどうか、などという検証につながる問題に拘泥してはいけません。
そして最後の「結合」は、自分と他人のアイデアの相互作用で、アイデアをさらに深化させることを狙っています。

ブレインストーミングでアイデアが出る理由

ブレインストーミングをやるとなぜアイデアが出やすくなるのか。実はその理論について語られている本はほとんどありません。
ブレインストーミングについて語られている本は多いのですが、ほとんどが手法ややり方についての記述に偏っており、その理論については書かれていません。
もちろん理論がわからなくても、ブレインストーミングはできますが、それだと単にやらされているだけになりかねませんし、例えば自社にあったやり方などの工夫や応用もできません。

その原理や理論を知るためには、イノベーションについて理解する必要があります。>
イノベーションとは、シュンペンターが「新結合」と説明していますが、複数の要素を「結合」して今までになかったものを生み出すこと。言葉を変えれば創発とほぼ同義です。
創発が起こる条件はこのブログでも何度か紹介しています。小さな小川がグランドキャニオンのような大河となったり、蝶の羽ばたきがハリケーンとなったり、あるいは小さな氷の粒が集まって見事な雪の結晶を作るあれです。

創発の原理は、「外部との開放性」「多様性」そして「ポジティブフィードバック」が起きることです。
ブレインストーミングの4原則のうち、「他人の非難をしない」「自由奔放な意見」「大量のアイデア」は、「外部との開放性」を保ちつつ、「多様性」を維持することにあたります。
そして4つめの、「他人の意見を受けてさらにそれを発展させる」は、複数の参加者が、それぞれのアイデアを相互作用させて、さらに発展させる。つまりポジティブフィードバックを起こしていることになります。

このような過程を経るので、ブレインストーミングは、イノベーションに最適な手法と言えるのです。

ブレインストーミングの欠点

しかし、ブレインストーミングにはいくつかの欠点も指摘されています。
確かに「4原則」がしっかり守られていれば、イノベーションや創発に高い効果が見込めるのですが、実際の組織では上下関係や他人への気兼ねがあり、なかなか「自由な発言」ができません。
経営学や社会心理学の研究では、プロダクティビティー・ロスと言われていまが、このプロダクティビティー・ロスがあるため、「ブレストでアイデアを出すのは、実は効率が悪い」という結果が得られています。

シキューラス大学のブライアン・ミューレンらが1991年に発表した論文では、ブレインストーミングをやった結果よりも、各人がバラバラでアイデアを出したほうが良い結果につながったとしています。特にブレストの場に権威のある人がいた場合、その傾向が強く現れます。
私自身がファシリテーションをした場でも、その傾向はみられました。上司など年上の権威者の出した意見に「素晴らしいですね~」と尊重しすぎて、議論が止まってしまうことがしばしば起こりました。
そういう場合私たちは、あらかじめ「ブレストの場に上下関係はありません」「人の意見を否定しない」など4原則を強く言います。それをやりやすくするために、「お互いを愛称で呼ぶ」という工夫も行います。
たしかにそうすると、意見の数はたくさんでるのですが、あまり結果につながりません。

これは、アイデアの数が原因というより、アイデア同士の相互作用、ポジティブフィードバックが起こりづらい為だと考えられます。
上司や年上の人の意見やアイデアを「上書きしづらい」という意識が働くためでしょう。特に日本人にはこの傾向が多くみられるのではないでしょうか。

ブレインストーミングの欠点を補うKJ法

そのための対策としては、ブレインストーミングと併せて、別の手法を取り入れるのが有効です。
つまり、ブレインストーミングでは、「アイデアを大量に出す」ことに専念し、それらを組み合わせて、イノベーティブなアイデアを「結合」するのは、別の手法で行うというやり方です。

川喜田二郎氏が編み出した発想法である「KJ法」は、まさにこのブレインストーミングの欠点を補う手法です。
KJ法は、ブレインストーミングなどで集めた大量のアイデアや意見等のデータを「構造化」する、つまり結合する手法です。
川喜田氏は、結合ではなく「融然」という言葉を好んだようですが、これには単に複数の要素が合わさるだけでなく、融け合って、自然(本来)の姿に還るという意味が込められています。

この日本で生まれたKJ法は今では(そのバリエーションも含め)世界に広がって、多くの国で効果を上げています。

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