デザイン思考を生んだIDEOのブレインストーミング

ブレインストーミング(ブレスト)を活用している企業として筆頭に挙げられるのは、シリコンバレーのデザインファームIDEOです。
IDEOは、アップルのマウスをデザインするなど多くの分野で実績をあげただけでなく、スタンフォード大学と共同で、d.schoolを開講。ここから「デザイン思考」という言葉が世に広まるきっかけを作りました。
同社が有名になったのが、米ABCテレビの「ディープダイブ-イノベーションを生むためのある会社の秘密兵器-」という番組でした。
この番組は、「イノベーティブなショッピングカートをデザインする。」という番組からのデザイン依頼に対し、彼らがどんな風にそれをデザインするかをカメラで追うという企画でした。そして期限の5日間で、彼らは新しいコンセプトのショッピングカートをデザインしたのです。

この番組はとても高い評価を得て、数か月後には再放送もされました。そして番組公開の翌日、IDEOのオフィスは問い合わせの電話が殺到しました。
しかしそれは、ショッピングカートについての問い合わせではなく、IDEOのデザインのプロセス、特にブレインストーミングのやり方についての問い合わせがほとんどだったそうです。

この番組はYouTubeでも見ることができますので、ご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。

よりよいブレインストーミングのための7つの秘訣

IDEOの共同代表トム・ケリーは著書「発想する会社-世界最高のデザインファームIDEOに学ぶイノベーションの技法-」(早川書房)の中で、IDEOのブレインストーミングの秘訣を以下のようにまとめています。

1.焦点を明確にする
何についてブレインストーミングするのか。よいブレストは、問題について焦点を絞ったテーマの提示から始まります。
限定されていたり、答えがすぐに出せそうだったりするものはふさわしくありません。例えば「中身がこぼれないコーヒーカップの蓋について」とか「自転車用カップホルダー」についてなどというのは味気なく製品に焦点が置かれすぎています。
「自転車に乗る人がこぼしたり舌を火傷したりしないで、安全にコーヒーを飲める方法は?」のように、参加者がより深く取り組める具体的なテーマ、しかも実現可能なソリューションを限定しないテーマを目指すべきです。

2.遊び心のあるルール
出されたアイデアが変だったりおかしいと思っても、批判したり論争を仕掛けたりするのは厳禁です。といって完全な無視するのではなく、ユーモアをもって脇へそらすことが必要と言います。
IDEOでは、多くの会議室の壁にブレストのルールが書かれています。「量を狙え」「思い切ったアイデアをどんどん出そう」「目に見えるように表現しよう」といったものです。

3.アイデアを数える
ブレストには「量が大事」というのは「イノベーションのためのブレインストーミング(ブレスト)の正しいやり方・進め方」でも述べましたが、実際にいくつ出されたか数えるのは、素朴ですがとても効果のある手法です。

4.力を蓄積しジャンプする
ブレストの場が、最初から盛り上がるというケースはほとんどありません。まずアイデアをどんどん出す。力を蓄積するフェーズがあります。そのうちあるきっかけで、その場がエキサイティングになる。そのうちまた平たんになる。ファシリテーターはそのタイミングを踏まえながら、流れを遮断しないように、またうまく流れを作ることが大事です。

5.場所(場)は記憶を呼び起こす
アイデアは必ずポストイットや付箋に書いて、壁や模造紙の上に張っていきます。メンバーはそれを見ながら、また自分のアイデアを出したり上書きしたりする。
ここでは、壁や模造紙が、メンバーのイノベーションを生み出す場(場所)となります。

6.精神の筋肉をストレッチする
いきなり本題にはいるのではなく、場を温めるストレッチをします。いわゆる「アイスブレイク」です。またブレスト前にフィールドワークや観察(オブザベーション)を行うのも、大事なストレッチの過程となります。

7.身体を使う
アイデアを出すとき、黙ってポストイットを書くのではなく、声に出して大きなモーションで壁や模造紙の上に張る。周りの人はそれに「いいね!」「そうそう!」などの反応を身振りとともに示す。そういう身体をつかうことがとても大事。
そして、必要な器具や道具があればどんどんその場に持ち込む。競合の製品、プロトタイプに使えそうな材料、あるいはスキット(演技)する舞台(スペース)。必要とあらば、何でもありとあらゆるものを(可能な限り)使いましょう。

ブレインストーミングを台無しにする6つの落とし穴

トム・ケリーは失敗しない秘訣、つまりこれをやればブレストは失敗するという禁止事項も教えてくれています。

1.上司が最初に発言する
上司が口火を切ることで、会議の議題や範囲を決めることになり、あっという間にブレストの自由は失われてしまいます。トムはその対策として「コーヒーを取りに行ってもらおう。ドーナツでもいいけれど」と述べています。

2.全員に必ず順番が回ってくる
全員が参加するのが大事、と端から順番に2分間ずつ話すというやり方。もちろんそういう話し合いがあってもいいですが、これはブレストでもなんでもありません。

3.エキスパート以外は立ち入り禁止
例えば新製品のアイデアで、その担当部署だけ、デザイナーだけとか、あるいはエンジニアだけなどというのは効果が薄いです。できるだけ幅広い多様性のあるメンバー構成にする必要があります。

4.社外で行う
スキー場とか、ビーチリゾートといったいつもと違った環境でやると効果的という話もありますが、逆効果の場合もあります。それは普段のオフィスでは「イノベーティブなアイデアが出ない」というのと同義だからです。
もちろんたまには社外でやるのもいいですが、その前にオフィス環境を見直しましょう。

5.ばかげたものを否定する
上記のTV番組でのショッピングカートのブレストでも、(子供が離れないように)「マジックテープのおむつカバー」「きまりの悪い商品を隠すためのプライバシーシェード」とった突飛なアイデアがぽんぽん出ていました。こうしたある意味現実離れしたアイデアがチームの役に立つということは、そんなに強調してもたりない、とトム・ケリーは述べています。

6.全てを書き留める
発言をすべて書き留めようとするのは、ダンスをしながらパソコンに文字を打とうとするようなもの。気になったことをスケッチするなど気ままに書いて楽しむ。ブレストは歴史の授業の講義ではないのだから。