デザイン思考ワークショップは、元祖のIDEOをはじめ、東京大学のi.schoolや、慶應義塾大学院SDM研究科、そのほか様々な企業や団体も主催して行われています。

デザイン思考ワークショップの内容については、それぞれ少しずつ異なっていますが、一つ共通していることは、「グループワーク」として行われるということです。
(無論「ワークショップ」は「グループワーク」なのが前提です。クルト・レヴィンがグループダイナミクスの手法として開発した手法が「ワークショップ」だからです。したがってタイトルの「一人で」と「ワークショップ」は論理矛盾を起こしているのですが、ここはレトリックとして、目をつぶっていただきたいです。(笑))

なぜデザイン思考はワークショップ(グループワーク)なのか?

デザイン思考は、人間中心デザイン(Human Centered Design)、つまり顧客やユーザーにとって、良い商品やサービスを提供する、そしてユーザーの課題解決をするための思考法やそれに関する様々な手法を指します。
デザイン思考のワークショップに参加する個人や団体、企業側からすれば、新商品の開発、イノベーションのため、個人一人一人のスキルアップのためという意図があると思います。

デザイン思考のワークショップが、個人ワークではなく、グループやチームで行われるのは次の2点があると考えられます。

1.現在の「デザイン」はチームで行うのが通例
デザインを創る人、デザイナーは、一人でアトリエや製図室のようなところにこもって、デザインを描くというイメージがあるかもしれませんが、現在の「デザイン」は多くの場合、チーム単位で行われます。
デザイン思考のワークショップが注目された一つのきっかけが、米国のTV番組で、IDEOが「イノベーティブなショッピングカートをデザインするプロセス」を放映したことにあります。番組ではIDEOの精鋭チームのメンバーが、ブレンストーミング(ブレスト)を重ねながら、実際にショッピングカートをデザインしていきました。
この番組が評判になって、IDEOのようなやり方でデザインや課題の解決をしたいという声が大きくなって、「デザイン思考ワークショップ」がブームになりました。このIDEO方式が広まり、グループワーク方式が浸透しました。

2.一人よりグループで行ったほうがイノベーティブなアイデアが出やすい
実際、一人の天才がアイデアを考えるよりも、グループで正しいやり方で(ここが重要ですが)共同作業を行ったほうが、パフォーマンスが高いということは、MITのAlex Pentlandが開発したソシオフィジクス(ソーシャル物理学)のデータや、ハーバードビジネスレビューに掲載されたLee Flemingの論文などから実証されています。(下図)

もちろん漫然と会議をしたり、単にブレストをすればいいわけではなく、その場合は、却って個人よりもパフォーマンスが落ちることも様々なデータが示しています。
そのため、上での述べたように、「正しいやり方」で、グループワークを行う必要があり、そのために「デザイン思考ワークショップ」が求められた経緯があります。

しかしながら、やはり、個人としてのスキル、アイデアを生み出す力を高めたいという要望ももちろん多くあるのですが、それについては、「グループで行うワークショップ」では、あまり叶えることができません。
また、デザイン思考は、あくまで「思考法」ですので、一度や二度のワークショップに参加したからと言って身につくものではなく、ある程度の時間をかけて繰り返し、何度も行う必要があります。車の構造や動かし方を覚えたからと言って、いきなり路上で運転しだしたら危険この上ないのと同じです。

そのため、私は慶應大学院SDM研究科に入学し、理論と実践を繰り返したわけですが、これには数年の時間と数百万円単位の投資が必要なので、だれにも勧めできるわけでもありません。(本音を言えば是非お勧めしたいです。(笑))

だから仮にグループワークとしての「デザイン思考ワークショップ」を一度は受けていただくにしても、個人でもできる「デザイン思考個人ワーク」が必要なのではないかと考えるようになりました。

そうすれば、お金をかけてワークショップを受けるまでには至らなくても、個人でも体系やコツを学ぶツールとして、また「デザイン思考ワークショップ」の予習、復習として活用したり、「定着化」ツールとして使えるのではないかと考えたのです。

デザイン思考プロセスの流れ

下記がIDEOが体系化した、デザイン思考プロセスです。
共感⇒定義⇒創造⇒プロトタイプ⇒テスト。

それに対して、デザイン思考のワークショップでは、次のやり方で行います。
もちろん、ワークショップを行う主体により細かいワークショップ手法は違いますが、概ねこの流れでしょう。

一人で行えるデザイン思考ワークショップ(個人ワーク)

デザイン思考ワークショップを個人ワークに転換しても、もちろんプロセスは変わりません。
ここで大いに参考になるのが、KJ法のフレームワークW型問題解決モデルです。

KJ法というと、親和図法のような、データの整理法と一般には思われていますが、それはKJ法の狭い範囲を指しているにすぎず、課題解決のための新たな発想を生む思考法、手法というのが、KJ法の概念です。
実際、W型問題解決モデルとIDEOフレームワークのプロセスは非常によく似ており、またIDEOフレームワークのほとんどすべてをW型問題解決モデルがカバーしていることもお分かりかと思います。実際IDEOフレームワークの共感~定義までは、KJ法で定めた手法で行うことができると、KJ法を定めた川喜田二郎氏は著書の中で述べています。(もちろんKJ法は、IDEOフレームワークより数十年も前に確立されているものです。)

問題定義はどうすればいいのか。例えばある村の青年が、(私は最近不安である。しかし何が問題なのか自分でもわからない。それが問題である。といった)捉えがたい悩みにおちいったとしよう。そのときにはどうすればいいのか。まず第一には、自分の心の状態を見つめ、問題意識を探ろうと思うことである。次にそのような心の姿勢をもったとき「なんだか自分の当惑とかかわりのありそうなこと」を、なんでもよいから枚挙して、紙切れにかきつけてみることである。
たとえば「一ヵ月前に牛が死んだ」とか「きのう彼女がそっけない態度をした」とか「学校を卒業すればどんな就職をすればいいのだろう」とか、さまざまの人名やものの名前や事柄が思い浮かぶだろう。このように書きつられたメモは、おたがいに一見なんのつながりがなく、バラバラに見える。ところが不思議なことに、その「なんだか気になる」ものごとを出しつくして、これをKJ法で組み立てると、自分の悩みのほんとうの構造がつかまれてくるのである。そこで構造がつかまれば、なおいちだんと明白に自分の直面する問題を定義として書きつけてみるとよい。

(「続・発想法 KJ法の展開と応用」川喜田二郎著 中公新書)

つまり、ペンとポストイットをもって、自分が解決したいと思う課題について、どんどん(矢鱈滅法に)書き連ねていきます。少なくとも数十枚、できれば100枚くらい書いてください。

もう一つの方法として、自分が関心あるひとのインタビュー記事を利用する方法もあります。
インタビュー記事にある短文や単語をすべて抜き出して、それぞれポストイットに書いていきます。ネットで数ページのインタビュー記事であれば、やはり数十枚~100枚の切片となるでしょう。

親和図法とデータの構造化

このデータ切片を親和図法で、まとめていきます。あなた自身の感覚で、似たもの、同じカテゴリーだと考えるものを分類し、それにタイトルを付けます。(色の違うポストイットで書くのがよいでしょう)

そのあと、KJ法でいう、構造化を行いますが、要は、このタイトル同士を見比べて、因果関係などの関係性を線や矢印でつないだり、新たな要素を加えていく作業です。

この「構造化」で、覚えていただきたい手法が、「バリューグラフ」と「因果ループ図」です。


バリューグラフは、解決したいもの、新しいアイデアをだしたいものをまず書いて、それになぜ(Why?)とどうやって(How?)を書いていく手法です。
そもそもその事象は何のためにあるのか? それをどうやって実行するのか?をポストイットで書いていくことで、課題の本質を考えたり、「代替案」「改良案」を生み出すことができます。

因果ループ

因果ループ図を描くと、何が問題解決に役立つのかというレバレッジポイントが見えてきます。そして、レバレッジポイントを動かす手法をいくつか考えてみます。

例えば、下図の因果ループで書いたような、ニューヨークの犯罪をなくす。という課題の場合ですと、「窓を修理する」「人のいない建物を壊す」「清掃人を雇って街をきれいにする」「街灯を増やす」などの手法が挙げられるでしょう。また、バリューグラフを使って代替案を考えていくと、これは実際にソーホー地区で行われたやりかたですが、「それまで荒れていたスラムの壁に、アーティストがアートを描く」という手法も思いつくことができます。

ニューヨークではこれらの手法で、それまで人がよりつけなかった、それまでの地区が観光街へと生まれ変わりました。

このように、デザイン思考は一人でもワークは可能です。
一人一人の個人の力がつくことが、良い製品やサービスを生み出す原動力となり、日本の発展にもつながるとともに、一人一人の「自己実現」にも役立つにちがいありません。

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