デザイン思考はマッキントッシュのマウスをデザインしたデビット・ケリーらが立ち上げたデザインカンパニーIDEOから生まれました。
「デザイナーの方法論で、課題解決を行うための思考法」であるデザイン思考は、先が読めない世の中にぴったりの思考法ということで、デザインの世界だけでなく、多くの業界から注目を集めることになりました。
IDEOやFROGといったデザインカンパニーは、商品デザイン(プロダクトデザイン)だけでなく、組織や経営の分野までその対象を広げています。
その風潮に乗ってか、2018年5月経済産業省と特許庁は『「デザイン経営」宣言』を発表します。
宣言によれば、21世紀の企業を取り巻く環境では「⽣き残るためには、顧客に真に必要とされる存在に⽣まれ変わらなければならない。そのような中、規模の⼤⼩を問わず、世界の有⼒企業が戦略の中⼼に据えているのがデザインである。⼀⽅、⽇本では経営者がデザインを有効な経営⼿段と認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっている。」と述べ、「このようなデザインを活⽤した経営⼿法を「デザイン経営」と呼び、それを推進する」ことが提言されています。
さらに、宣言にはデザイン経営のための具体的な推進策についても述べられています。
① デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
デザインを企業戦略の中核に関連付け、デザインについて経営メンバーと密なコミュケーションを取る。
② 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
デザイナーが最上流から計画に参加する。
③ 「デザイン経営」の推進組織の設置
組織図の重要な位置にデザイン部⾨を位置付け、社内横断でデザインを実施する。
④ デザイン⼿法による顧客の潜在ニーズの発⾒
観察⼿法の導⼊により、顧客の潜在ニーズを発⾒する。
⑤ アジャイル型開発プロセスの実施
観察・仮説構築・試作・再仮説構築の反復により、質とスピードの両取りを⾏う。
⑥ 採⽤および⼈材の育成
デザイン⼈材の採⽤を強化する。また、ビジネス⼈材やテクノロジー⼈材に対するデザイン⼿法の教育を⾏うことで、デザインマインドを向上させる。
⑦ デザインの結果指標・プロセス指標の設計を⼯夫
指標作成の難しいデザインについても、観察可能で⻑期的な企業価値を向上させるための指標策定を試みる。

そして「デザイン経営の実践には、①経営チームにデザイン責任者がいること、②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること、の2点が必要条件となる。」と述べられています。

このように、これからの経営に「デザイン」が求められているのは明らか。なんせ「国家プロジェクト」ですから。

ただ、この宣言を読んで気になったのは、「デザイナーが経営に携わればデザイン経営ができる」という風に読めてしまう点。
WEBデザイナー、プロダクトデザイナー、建築デザイナー、ジュエリーデザイナー、ファッションデザイナー等世の中デザイナーと呼ばれる人はたくさんいます。こういう人たちが経営職に就けば、その会社はうまく回るのでしょうか?
そういう人たちが経営に携わることで、どうして会社がうまくいくのか、そのプロセスもあいまいです。
デザイナーは顧客志向であり、その顧客志向を企業文化とするためである、という趣旨のことが書かれていますが、「営業職」や「顧客サービス部門」も当然顧客志向であり、営業部長や顧客サービスの責任者が経営に入るのと何が違うのか、

おそらくここでいう「デザイナー」とは「経営デザイン、組織デザイン」ができる人というほうがしっくりくる気がします。
あらゆるデザインで共通のスキルがあるのは間違いないですが、昨日までファッションデザイナーだった人がWEBデザイナーとして即使えるわけではないように、経営デザイン、組織デザインにも、独自のスキルや能力が必要になると考えます。

経営デザイン・組織デザインに必要な能力とは

では、その経営デザイン、組織デザインに必要な能力とは何でしょうか?
1つは、いわゆる「デザイン思考」が体系立てて理解できている人。観察・共感、定義づけ、アイデア創出、プロトタイピングといったデザイン思考のプロセスは、経営や組織のデザインにおいても必要なものです。
もちろんこれは商品デザイナーなどあらゆるデザイナーに共通して必要なスキルであることは言うまでもありません。

私は経営デザイン、組織デザインに関して特に必要なのは「自己組織化」にかんする知識と理解であると考えます。
ここでいう「自己組織化」はティール組織などでいう「セルフマネジメント」ともほぼ同じ意味です。
ここで「自己組織化」について詳しく述べるスペースはないのですが(当ブログ記事において折に触れ触れていきます)、一つ述べると、ダイアモンド・ハーバードビジネスレビューの2018年9月号の記事「生物の進化のように発想する 進化思考(太刀川英輔氏)」で書かれている進化思考とほぼ同じ視点です。
太刀川氏は、イノベーションを生命の進化に例えました。同じように人間の組織も動物の群れと同じく、生命的な組織です。「TOPが思ったように組織は動かすのは難しい」とは、あらゆるリーダーが感じていることかと思いますが、あらゆる組織には「自己組織化」が何らかの形で働いているので、それを考慮に入れないと「組織デザイン」そして「経営デザイン」は難しいのです。

20世紀末の複雑系研究以来、「自己組織化」については、様々な研究が進められています。
繰り返しになりますが、経営デザイン、組織デザインにおいて必要不可欠なことは「デザイン思考+自己組織化経営」ということになるでしょう。