デザインスプリントとデザイン思考の定義

イノベーティブな組織づくりや、新たなビジネスや新製品開発のための手法として「デザインスプリント」に注目が集まっています。

デザインスプリントはGV(旧Google Ventures)のJake Knappらによってフレームワークが創られましたが、Googleの出資先のベンチャー企業やブルーボトルコーヒー、LEGO社などに導入され、成果を挙げています。
ブルーボトルコーヒーとLEGOの共通点として挙げられるのは、いわゆる「ハイテク企業」ではない点。つまりコーヒーチェーンもブロック玩具も、決して参入障壁が高くはないのですが、両者ともユニークな商品やサービスで他社と差別化ができている点です。

ではこの「デザインスプリント」とは何なのか、デザイン思考の違いは何か。また逆に何が同じなのかについて、ここで述べてみたいと思います。

まずそれぞれの「定義」について記してみましょう。

“The sprint is a five-day process for answering critical business questions through design, prototyping, and testing ideas with customers.”
-Jake Knapp, Author of SPRINT and one of the inventors of the Design Sprint.

「デザインスプリントは、設計、プロトタイピング、および顧客とのアイデアのテストを通じて重要なビジネスの質問に答えるための5日間のプロセスです。」
-SPRINTの作者であり、Design Sprintの発明者の1人であるJake Knapp

“Design thinking is a human-centered approach to innovation that draws from the designer’s toolkit to integrate the needs of people, the possibilities of technology, and the requirements for business success.”
— Tim Brown, president and CEO, IDEO.

「デザイン思考は、人のニーズ、テクノロジーの可能性、およびビジネスの成功のための要件を統合するためにデザイナーのツールキットから引き出すイノベーションへの人間中心アプローチです。」
— IDEO社長兼CEO、ティムブラウン

両者の言葉からわかるのは、その抽象度の違いです。より具体的なデザインスプリントはデザイン思考を具体的な手法に落とし込んだものと言えると思います。

しかしながら、その手法はデザイン思考でも「IDEOフレームワーク」を始め数多くあります。このサイトの記事でも「デザイン思考10のメソッド(手法)」を紹介していますが、その他にも数多くの手法があり、例えばデルフト工科大学編集の「デザイン思考の教科書」には約70種類のメソッドが紹介されています。

またデザインスプリントを開発したといわれるGVのフレームワークでは、次の5つのプロセスが紹介されています。

1.Map(地図を作る)
2.Sketch(スケッチする)
3.Decide(決定する)
4.Prototype(プロトタイプをつくる)
5.Test(検証する)

解説本やWEBサイトの説明の中には、1番がUnpack(開梱する)やUnderstand(理解する)となっているものや、2番でDiverge(発散する)としているものも見られますが、どちらで考えても問題ありません。これらのプロセスは、IDEOのデザイン思考フレームワークと同じと考えてもよいでしょう。

デザインスプリントのフレームワーク

IDEOのデザイン思考フレームワーク

  
 
LEGO社にデザインスプリントを導入したことでも知られる、デザイン・エージェンシーのAJ&Smart(ドイツ)のCo-FounderであるJonathan Courtneyは、デザイン思考が「料理教室」なのに対し、デザインスプリントは「レシピ」であると解説しています。
 

 
デザイン思考は料理教室
料理教室では、料理の考え方や哲学、風味のしくみ、どの成分が互いに補完し合うか、特定のアイテムの準備方法(玉ねぎを切る、肉を料理する、ソースを作る)を学ぶことができます。

デザインスプリントはレシピ
デザインスプリントは、考え方、哲学、またはツールキットではなく、アイデア(多くの場合、製品/サービス/ビジネスアイデア)を作成およびテストするための特定の段階的なシステムです。つまり、デザインスプリントはレシピです。 必要な食材は何か、何をするべきか、いつ行うべきか、そしてレストランのような大きなキッチンの場合、誰が何をするか役割も定めます。

この説明、今なら意味はわかるのですが、最初は正直言ってよくわからなかったことを白状します。(笑)


 
デザイン思考のワークショップを料理教室に例えるというのは、よくわかります。しかしレシピを提示するのがデザインスプリントなら、私たちのサイトの記事でも以前から、高額なワークショップにいかなくても、各々が取り組むための「デザイン思考のレシピ」を提供してきました。

一人でできるデザイン思考ワークショップ
デザイン思考10のメソッド(手法)-プロダクトデザイン・組織デザイン-
  
ではこれらの記事に書いてあることがデザインスプリントなのか?というと、もちろんそんな事はありません。

確かに、デザインスプリントの本に書いてあることは、デザイン思考のレシピ(手法)なのですが、材料を揃えたり手順を覚えたりすることがデザインスプリントなのではなく、レシピを基にして実際に、家で自分や家族のための食事をつくること、これがデザインスプリントであるというのが、この動画の趣旨になるかと思います。

つまり下図のように、実際の業務(新製品やビジネス開発)の中にデザイン思考を取り組むことが、デザインスプリントです。

デザイン思考ワークショプとデザインスプリントの違い

 
実際にどのようにデザイン思考を業務の中に取り組むか、そのための3つの手法(1.デザインスプリントを繰り返す。2.要求定義プロセスでデザインスプリントを行う。3.アジャイル開発(スクラム)のプロセスに繋げる。)を、この記事(デザインスプリントは、デザイン思考+アジャイル開発(スクラム)フレームワーク)で詳しく解説していますので、ご覧いただけると幸いです。

また上記記事でも書いているように、デザインスプリントは、とりあえずやってみよう、でもいいとは思いますが、それよりも社内組織変革の取っ掛かりとして始めるのが、もっとも効果が高い取り組み方だと思います。
実際に、製品やサービス開発でも活用できますし、社内をアジャイル経営、あるいはVUCA時代の中、柔軟で俊敏(Agility)な組織にして、現在のような環境の変化に強い組織づくりを行う。

そのための起爆剤的な効果が、このデザインスプリントにはあると考えています。