「デザイン思考」「デザインシンキング」というと、IDEOやその創業者であるデビッド・ケリーがスタンフォード大学に開設したd.schoolが有名です。
「デザイン思考」という言葉自体、ここから生まれたというのが定説です。
しかし、デザイン思考の概念はそれより前からあり、デザイン思考教育も欧米の大学院を中心に行われてきました。

この記事では、欧米や日本の大学や大学院で行われている「デザイン思考講座」の紹介を通じて、デザイン思考の様々な手法について紹介したいと思います。

スタンフォード大学(d.school)

言わずと知れた「デザイン思考の総本山」。上記のようにシリコンバレーを代表するデザインカンパニーのIDEO創業者のデビッド・ケリーが2004年に設立しました。
d.schoolのメソッドで有名なのは、下記の5つのプロセスでしょう。
共感(Empathize)、定義(Define)、創造(Ideate)、プロトタイプ(Prototype)、テスト(Test)の5つのプロセスを回していくこの図は、d.school、IDEOのメソッドを視覚化したものとして有名になりました。

d.schoolで重視されているのは、多様性であるといわれています。世界中から人材が集まるd.schoolでは、国籍、年齢、それまでの経歴など一切関係なく皆平等で対等に意見を戦わせることをモットーにしています。
d.schoolという名前は世界中で有名になりましたが、その実態はあまり知られていません。スタンフォード大学の授業の一つだろう、というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、d.schoolは、スタンフォードに籍を置く学生、研究者、教職員のためのラーニングセンターのような位置づけです。
スタンフォードの部外者でも参加が許されるポップアップクラスやエグゼクティブクラスも用意されています。

スタンフォード大学(ME310)

スタンフォード大学のデザインスクールというと、上記のd.schoolがあまりにも有名ですが、スタンフォード大学にはそれ以前からデザイン思考の講座があることには意外と知られていません。
1967年に創立され、本来はこちらが正規の大学院のプログラムです。d.schoolを設立したデビッド・ケリーも学生時代このME310でデザイン思考を学んでいました。ちなみにME310とは「Mechanical Engineeringの310番の授業」という意味だそうです。300番台は大学院向けという意味を持っています。

ME310の特徴の一つは、Immersion(没入)プログラムです。
実際の協力企業のイノベーションプログラムに参加することで、実際の商品開発を行い、そういう実践のプログラムを通じてデザイン思考を体感として学ぶことができます。
またスタンフォード大学ではこのプログラムを学内だけでなく他の大学とも連携して進めています。
このグローバルネットワークをSUGAR(Stanford University Global Alliance for Redesign)と呼んでいて、スタンフォード大学が入っている部分を含めて「ME310/SUGAR」として国際的なネットワークを形成しています。
日本からは、東京工業大学や京都工芸繊維大学が、このSUGARプログラムへの参加実績があります。

このME310で教えるデザイン思考のプロセスもd.schoolとほぼ同じですが、下記のループ図のようなプロセスとなっています。
まず課題の設定(Define the problem)があって、コンセプト(根本)への探求フェーズの後、ニーズの把握と測定のフェーズで、ユーザのニーズを把握します。次がブレインストーミング。ME310では、チームでの開発を重視していることがわかります。そしてプロトタイプとテストへと進む過程はIDEOやd.schoolのプロセスと同じですが、特にラピッドプロトタイピングとイタレーション(繰り返し)を重視していることが、下記の図からもうかがえます。

デルフト工科大学

スタンフォード大学が、米国におけるデザイン思考の総本山とすれば、ヨーロッパにおける中心地がオランダにあるデルフト工科大学です。
デルフト工科大学のデザイン思考講座も、ME310と同じく1960年代にスタートしました。
デルフト工科大学でも、デザイン思考のプロセスを「発見」(Discover)、「定義」(Define)、開発(Develop)、評価・決定(Evaluate&Decide)としています。
工科大学らしく「プロセス」とともに「手法」が重視され、それぞれのプロセスについて、8種類から20数種類の手法があります。(「デザイン思考の教科書」に記載されているもののみ)
デザイン思考の教科書(Delft Design Guide)の本には上記のほかの手法と併せて、約70種類の手法が記載されています。

東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)

日本においてもこの10年ほどで「デザイン思考」は広まりを見せています。東京大学のi.schoolや、ME310にも参加した京都工芸繊維大学など多くの大学や大学院で「デザイン思考講座」も開催されています。
東京工業大学EDPでは、d.school、ME310両方のプログラムを参考に独自のプログラムを創設しています。

慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科

2008年に設立された、慶応大学院SDM研究科では早くからデザイン思考のプログラムを開催してきました。当初はスタンフォード大学のプログラムをそのまま実施していましたが、その後独自のプログラムを開発して今に至っています。
ME310と同じく、実際に使える手法を重視し、Immersionプログラムに当たる「デザイン・プロジェクト」という授業の中で、強力企業とともに新製品の開発や課題解決の立案を行っています。

デザイン思考のプロセスで特徴なのが、システム思考、特にシステムエンジニアリング(SE)の手法を大きく取り入れている点です。
SEのプロセスである、要求定義、開発、製造、システム検証、妥当性確認の5つのプロセス(Vモデル)をもとに、デザイン思考のプロセスもそれと融合させているのが、このSDMモデルの大きな特徴です。
そのためSDMではいわゆる「デザイン思考」と区別させる意味で「システム×デザイン思考」と呼んで、日本人にあったプログラムの開発を進めています。