前回「組織デザイン」について書きましたが、その「組織デザイン」ができている会社の事例を紹介したいと思います。

「組織デザイン」ができている会社というと、IDEOのようなデザインファームやコンサルティング会社、IT企業のような最先端の会社をイメージされるかもしれませんが、ここで紹介したいのは、「パプアニューギニア海産」という、小さな水産加工業を営む会社です。
この会社について紹介されている「生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方」(武藤北斗著)
生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方

『品質・作業効率が向上
離職率・人件費が減少

好きな日に働く、嫌いな仕事はやらない……
人に優しい働き方の先にあったのは
想像を超えたプラスの循環だった

「出退勤時間は自由」「嫌いな作業はやらなくてよい」など、非常識とも思える数々の取り組みが、いま大きな共感を呼んでいる。そして、その先にはあったのは思いもしなかった利益を生むプラスの循環だった。
2011年3月11日14時46分、東日本大震災。石巻のエビ工場と店舗は津波ですべて流された。追い打ちをかけるような福島第一原発事故。ジレンマのなか工場の大阪移転を決意する。債務総額1億4000万円からの再起。
人の生死を目の前にして考えたのは、「生きる」「死ぬ」「育てる」などシンプルなこと。そしてそれを支える「働く」ということ。自分も従業員も生きるための職場で苦しんではいないだろうか。
そんななかで考え出したのが「フリースケジュール」という自分の生活を大事にした働き方。好きな日に出勤でき、欠勤を会社へ連絡する必要もない。そもそも当日欠勤という概念すらない。
これは、「縛り」「疑い」「争う」ことに抗い始めた小さなエビ工場の新しい働き方への挑戦の記録である。』

青年海外協力隊で、パプアニューギニアのエビのフェアトレード事業に取り組んだ事業を基に創業。パプアニューギニア産の天然エビを薬品や添加物を一切使わず手作業にこだわったエビの加工や販売を行っています。

この会社はもともと宮城県石巻市で営業していましたが、東日本大震災で工場が全壊し大阪へ移転しました。
そしてこのことを契機に「社員の働き方」の見直しを行って、「フリースケジュール」制度を導入しました。パートの勤務形態を自由として、出勤日、出社時間、休みをすべて従業員が決める。出勤日や時間や休みの届出等は一切不要(というより連絡の禁止)という制度です。
また、業務に関しても「嫌いな作業はやらなくてもいい」という制度を導入しました。

つまり従業員は、出社したいときに出社し、休みたいときに休む。そして仕事についても自分の好きな業務をすることができる。という制度です。
この会社でエビの加工を行う従業員はほぼ全員が、小さな子供をもったお母さんです。子供を保育園に預けたり、家庭の事情があったりできちんと9時―5時で働くことが難しい。子供が熱を出すなど急に出社できなることも多い。そのたびに会社へ連絡を入れるのは、精神的負担が多い。それならば、一切の勤務形態を自由としたほうが、働きやすい会社となる、ということからこの制度が始まりました。

私がこの会社のことを知ったのは、いわゆる「ティール組織」「ホラクラシー」を実施している会社を調査している過程でした。しかしこの会社が「フリースケジュール」を始めたのは震災(2011年)が契機ですから、今の「ティール」「ホラクラシー」の流れとは直接関係があるわけではありません。
新たに大阪の地で事業を始めるにあたって「どうすれば従業員が集まる組織になるか」「従業員中心の組織にするにはどうすればいいか」ということを考えた末に産み出されたものです。

なぜフリースケジュールが可能なのか

この会社の、「出社や休みが自由」「好きな仕事だけをする」という「フリースケジュール」のことを聞いた方はおそらく「そんなことが可能なのか?」と考えられることと思います。(私も最初そう思いました。)
「全員が休んでしまったらどうするのか?」
「みんなが嫌な仕事をしなくなったらどうするのか?」
「そもそもそれで会社は回るのか?」

そして、この「パプアニューギニア海産」だから可能だったのであって、ほかの会社、ましてやうちの会社では絶対に無理。と思った方も多いのではないでしょうか?

私自身も最初はそう考えましたが、そもそもその考え自体に「大きな間違い」があることにこの本を読んで気が付きました。
この会社の工場長である著者はどれほど性善説なのかという印象を最初は持ったのですが、本を読んでそれはまったく違っていて、著者は本の中で「驚かれるかもしれませんが、僕はあまり人間という生き物を信用していません」と言っています。
だからこそ、「人間は自分の居場所を求めるために、争う生き物であるということを認識し」、それを前提に仕組みを作っていくことが大事であると述べています。

つまり「今までの仕組み」をがらりと変え、新たに「従業員中心」の仕組みを導入したのがこの会社です。
おそらく「うちの会社では無理」と思った方は、今の会社のタスクを基に考えて、そこに従業員を当てはめる、という発想で考えているのだと思います。
その場合もちろん「フリースケジュール」「嫌いな仕事をやらない」といった従業員中心の仕組みを作ることは無理です。
タスクに従業員を当てはめるのではなく、従業員を中心にそこからタスクを創るという発想の転換が必要になるのです。

組織デザインも人間中心デザイン

前回の記事で、デザイン思考は製品中心ではなく、人間中心の思考であり、そしてデザイン思考で効果を上げるためには、製品デザインだけでなく、組織デザインを考える必要があると述べました。
ここでいう「組織デザイン」ももちろん「人間中心」の思考法である必要があります。
しかし私たちのほとんどが、「タスク中心」の考え方にとらわれています。

これからの時代、「従業員にやさしい会社を創る」「顧客のためになるイノベーティブな製品を創っていく」という方向に進んでいくのであれば、「製品中心」「タスク中心」から「顧客中心」「従業員中心」へと考え方、発想を転換する必要がある。この本はそのことを教えてくれます。

組織デザイン、経営デザインのためのデザイン思考