仕事は客のため、ひいては世の中のため

DX(デジタルトランスフォーメーション)の鍵は、デザイン思考とアジャイルマインド」という記事を書きましたが、そのあと鍵となる「アジャイルマインド」を考察し、それは「価値創造思考」のことであるという結論となりました。(アジャイルマインドとは「価値創造」のことである。

でもそうなると、「価値創造」もっと言えば「価値」とはなにか。そして「価値創造」をするために具合的に何をすればいいのかという次の疑問が湧いてきます。

ただ「価値」とはなにか「価値創造」とはなにか、抽象度が高いレベルのまま考えると、ますます混迷しそうです。
もっと具体的な形で「価値」や「価値創造」を説明している「事例」はないだろうか。

「価値創造」をしている具体的な事例は・・・ありました。

いま評判のドラマ「半沢直樹」です。
 
 

 
もちろんフィクションですし、「実際にはありえないだろ(笑)」という滑稽無糖なシーンも多いドラマですが、実はあるシーンで「価値」について語っています。(とはいえ「価値」という言葉を使っているわけではなのですが。)

第4話で、部下の森山が「部長の持つ信念とはなんですか?」と訊いたときの半沢の返答です。

「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は、内向きで、卑屈で、醜く歪んでくる。伊佐山や三笠や大和田みたいな連中が増えれば当然組織は腐ってくる。組織が腐れば世の中も腐る。」

この「仕事は客のためにする。ひいては世の中のためにする」これはシーンこそ違いますが、原作小説の「ロスジェネの逆襲」でも半沢が森山に語っていたセリフです。

デザイン思考を学んだ方ならすぐに「人間中心設計(Human Centered Design)のことですね」と気づくかもしれません。

このドラマで描かれている「悪役」の伊佐山や三笠や大和田は、自分がどれだけ出世し社内に影響力を持てるかにしか関心がありません。
仮にどんなに偉くなったとしても、それ自体顧客にも世の中にもまったくメリットはありませんので、ここに「価値」はまったくないわけです。

これは必ずしもドラマの話だけではなく、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)についてもいえることです。

今流行のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを入れて「社内業務の効率化ができた」といっても、これだけでは「価値はない」のです。
効率化で生まれた「時間」あるいは「お金」で、「客や世の中のために」何をするのか。ここまで考えて初めて「価値」が生まれます。

自分のやっていること(仕事)に価値はあるのか?
もし自分のやっていることに疑問を持ったら、それは「客ひいては世の中のために」なっていることなのかどうか自問してみることをおすすめします。

価値を見える化するデザイン思考の手法2選

もちろん現実はドラマのように単純ではなく、特に今のような「高度資本主義社会」という複雑なシステムの中では、何が客や世の中のためになるのか、そうでないのか判断するのは実は簡単なことではありません。

そこで、その「価値」が見える化できるデザイン思考の手法を2つ紹介します。

バリューグラフ

「価値」という概念を把握するのが難しい最大の理由が、人によって、あるいは状況によって「価値」の抽象度がバラバラなことです。

ある人は「それによって対価(お金)を得ること」が価値と思うかもしれませんし、別の人は「全人類の幸福」に繋がることこそが価値だと主張するかもしれません。
どちらが価値として正しいのか議論をしても、おそらく噛み合わないのは、実は抽象度が違うからです。この抽象度をキーに「価値マップ」を描くのがバリューグラフです。

価値の抽象度を上げるには「なぜ」を考えていけばその目的や理念といった「抽象度の高い価値」を描くことができます。
逆に、「どうやって」を考えると、具体的な手段を考えることができます。
バリューグラフを考案した石井浩介スタンフォード大学元教授の著書から「石井ドライヤー」の図を引用してみます。

石井浩介 飯野謙次. 「価値づくり設計」:養賢堂 2008

 
詳しくはこちらのページで解説しています。
コロナ禍でビジネスモデルを転換するための方法論
 
 

顧客価値連鎖分析(CVCA)

上で「仕事は客の為にするもんだ。ひいては世の中の為にする。」という半沢直樹の言葉を紹介しましたが、その仕事が客や世の中とどういった価値で、どのように繋がっているのかを可視化するのが、顧客価値連鎖分析(Customer Value Chain Analysis;CVCA)です。
このCVCAも石井元教授らによって提唱されたものです。
これについても当サイトの記事「CVCAで独自のビジネスモデルを構築する」で紹介していますが、その中からAppleのiPod、iPhoneが成功した事例についてCVCAで表したのが下図です。

AppleのCVCA

 
発売当初よく言われていたことですが、iPodにせよiPhoneにせよ、競合他社より高品質とはお世辞にも言えない端末(デバイス)でした。しかし顧客に価値(ここでは音楽を顧客に届けること)を届ける端末としての高い評価が、Appleを時価総額世界一企業に押し上げたのです。

価値創造のためのデザイン思考+アジャイルマインド

iPhoneが初めて世に出たのは2007年1月でしたが、スマートフォンの分野で先行していたノキアの人たちは、実際に手に取ってあまりの「ちゃち」さに拍子抜けしたそうです。実際ノキアやRIM(ブラックベリー)のスマートフォンと比較して性能は比べ物になりませんでした。

しかし、顧客の声を反映しながらバージョンアップを重ねて、わずか数年の間に立場は逆転したのは御存知の通り。最初に出した製品がシンプルだったからこそ、顧客に適度にFITする製品を出し続けられたとも言えます。
日本製の電化製品や携帯電話などの電子製品が高性能過ぎて、逆に使いづらいシロモノになってしまって評価を落としたのとまさに対照的です。

Appleはまさにデザイン思考(人間中心設計)とアジャイルマインドで成功した企業と言えると思います。

このような「価値創造」のために上記の「バリューグラフ」や「CVCA」といった実際にデザイン思考でも使われる手法を是非活用してほしいと思いますが、これらを「アジャイル」の上流工程で使われるICONIXというフレームワークに適応した、「ICONIX for Business Design」では、バリューグラフやCVCA等をそのプロセスのダイアログとして、ビジネスモデルデザインに活用できるよう手法化しました。

今論文として学会で査読中ですので、然るべきときに詳細を述べていきたいと思っています。
 

ICONIX for Business Design