やはり「成功する企業」「企業組織」を研究するものとしては、このテーマについて考えたいなと。実際、先月発表した論文で、西野ジャパンの成功と限界はかなり説明ができます。論文並み(?)に長文なので、暇と興味がある人だけ読んでください。(笑)

【ハリルホジッチ解任】
ハリルのやり方は、(多くの欧米人監督がそうであるように)自分のスタイル(ハリルの場合堅守速攻)にあった選手をピースとして嵌めて、監督の戦略、戦術通りに選手が動くというもの。会社で言えば、上の定めた予算や方針の通りに現場が動くことを要求され、それに高いパフォーマンスで答えた従業員(選手)が評価されて、出世(抜擢)される。
しかし、本番2か月前、この方式は破綻した。破綻の原因や経緯はいろいろ報道されているけど、ここでは述べない。

【西野監督就任】

就任の経緯もいろいろ報道されているけど、これもここでは述べない(笑)。
西野監督にももちろん独自の監督スタイルがあるだろう。しかし、それをたった1~2か月で組織づくりをするのは勿論不可能。選手に自分の戦略や戦術をじっくり伝えたり、ましてや教育したり選手の実力を伸ばしたりといった時間はない。
また、次世代選手を発掘したり、そのポテンシャルを開花させるという余裕もない。

したがって、取りえる戦略は1つしかなかった。

【自律的な組織】

自分の戦略に選手を当てはめることができない以上、選手間の自律的相互作用でチーム組織を創っていくしかない。
それが西野監督の取りえる唯一の戦略だった。

「ポリバレント」の意味。
西野監督は代表招集で、「ポリバレント」な選手を集めたと述べた。Polyvalentとは化学用語で「多価」、1つのものが複数の特徴を持ち様々なものと結合できる状態をいう。
サッカーでは、「様々なポジションを守れる選手」を指す。
ここで、西野監督は世間から批判を浴びる。
香川、本田など「ロートル選手」ばかり集めた。久保や中島など若くて結果を出せる選手をなぜ招集しない。
実際中島もクラブでは、複数のポジションをこなしており、十分ポリバレントではないか、という批判も多かった。

しかし中島らはまだ代表経験も少なく、W杯経験はない。
もしかしたら「能力」は他の選手を上回っているかもしれないが、上からの指示ではなく、選手間で自律的組織を創るためには、すでにW杯を経験している者、同じ代表チームで戦った経験者同士で、意思疎通ができやすい状態にする必要があった。
(中島や久保らにそういう力がないと言っているわけではない。しかしあまりにも少ない時間で、それを確認するリスクは取れなかったということである。)

そして西野監督は、戦略の指示はほとんど与えず、選手間で徹底的に議論させ戦略を練らせたといわれる。
経験豊富なベテラン間で十分なコミュニケーションをとらせ、自律的な組織を創り上げていったと思われる。
ここでやり方を間違うと選手間で喧嘩が起こって反目しあう恐れもあるが、あの本田が最後に「本当に選手をみんな好きになった」と言ったところを見ると、西野監督のやり方は成功したのではないだろうか。
西野監督はファシリテーターとしても有能なのかもしれない。

【目標はベスト16】
西野監督は、目標を明確に「1次リーグ突破」に置いた。そしてそれ以外は切り捨てた。
そのためにはまず第1戦の「コロンビア戦」にベストの状態で臨むこと。
だから直前の親善試合では結果は求めなかったし、休養も十分に与えている。
その間に個々の選手のスキルを伸ばす、などということは全く考えなかった。対照的なのが2006年のジーコで、決定力不足と言われている中、試合前日に全員にシュート練習をさせている。

【ポーランド戦のボール回し】
賛否両論のあったポーランド戦の最後の10分のボール回し。西野監督の戦略は明確かつシンプルだった。
目標突破のため、最も高い確率の戦略を採用した。だから他の要素(世間からの批判、あるべきサッカー像など)は切り捨てた。

【ベルギー戦】
決勝トーナメント、悲願はベスト8進出であるし、もちろんできるだけ勝ち上がって、ベスト4、決勝進出、優勝とどのチームも目指す。
とはいえ(うまくいったとしても)現実はどこかで負けるわけだし、仮にFIFAランク3位のベルギー戦に勝ったところで、次は2位のブラジルである。優勝でない限り、最後の試合は負け試合なわけで、最後の試合どう負けるか。
(こう書くと人は最後は必ず死ぬ。。人生論みたいですね。(笑))
西野監督はここではベストの状態で思い切って相手と当たる。を目標にしていたと思う。
(だから、ポーランド戦で主力を温存し、最後にあのパス回しをさせた。)

ベルギー戦では、最後まで攻めた。勝手な想像だがポーランド戦の後のMTGで、西野監督は、「決勝リーグでは、守りの戦略をとらない。結果を考えず思い切って自分のプレーをしろ」と述べたのではないだろうか?
ベルギー戦では、格上の相手に選手は伸び伸びとプレーをしていた。それが先制ゴールにつながり、相手を土俵際まで追い詰めたと思われる。

あのあともしどうしても勝ちに行くのなら、2点取った時点で、「ボール回し」したほうが良かったかもしれないし、また本田の最後のコーナーキックは、定石ならショートコーナーにして安全策をとって延長を狙う。
(現実には延長、PKになったところで、控え選手、GKの差を考えると、日本が勝てる確率はかなり低かったと思われる)
本田の強気の攻めは、今後も非難を浴びることが予想されるが、そこに掛けて敗れた、西野監督、本田を評価したい。あのフリーキックは並みのキーパーだったら点を取れていた。

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自律的な組織が、必ずしもうまくいくか、それはわかりません。
ベルギー戦のあと、ハリルは、自分ならベスト8に行けていたと言ったとかなんとか。
しかし、西野監督の今回の一連の戦略は、企業戦略を研究する身にとって、とても考えさせられる内容でした。