かつて原子力発電は絶対安全だという「安全神話」がありました。
福島原発では、震災の数年前に「災害時の『全電源喪失』に備えて安全装置を強化すべきだ」という議論がありましたが、その計画は却下されました。
「日本の原発は今でも十分安全であり、事故など起こりえない」
なんというポジティブ思考でしょう。そしてその結果は、皆の知る通りです。

あるいは太平洋戦争に突入した時の日本国民の熱狂はどう考えればよいのでしょうか。。
だれもが「日本は勝利する」と信じ、誰かが、「いや日本はアメリカに勝てるわけがない」などネガティブなことを言おうものなら、『非国民』となって特高に逮捕されることもあったと聞きます。
今の「ポジティブ・シンキングの教え」と被って見えるのは、気のせいでしょうか?

自己啓発書は主張します。
「”目標は実現する”と常に考えよ。」
「”だめかもしれない”というネガティブな考えが心によぎったら、すぐに否定しなさい」
「”ネガティブな考え”が心に浮かばないくらい、強くイメージングしなさい」
「そうすれば、自然と世界がそのように動いてくれます」

太平洋戦争、原発事故、そのほかにもいまだに日本経済を苦しめている1980年代のバブル崩壊
私自身も記憶がありますが、あのころ日本中が浮かれていました。
「Japan As No.1」という本が大ヒットし、この繁栄は永遠というのは大げさにしてもづっと続くに違いない。
東京は世界有数の都市になり、そこに世界中から資本が集まるのだから、地価は上がり続ける。
そう思い、人は争って都心の土地を買いあさり、株を買い占めました。

確かにこのまま土地や株価は上がり続ける、と皆が信じれば、売る人はいない、買いたい人は増えるのですから、土地も株も上がり続けます。そして人はますますポジティブになってますます買い続け、それがますます価格を押し上げ。。。
まさに「ポジティブ・シンキングの教え」が正しく思える瞬間かもしれません。

しかし、この減少はシステム思考でいう自己強化(ポジティブ)ループ(Reinforcing Loop)が回っている現象に過ぎません。
そしてシステム思考では、ポジティブループは、何かきっかけがあれば逆回転し、今度は加速度的に物事は減少する性質を持つとシステム思考では教えます。
バブル崩壊のきっかけは、大蔵省の総量規制導入と言われていますが、仮にそれがなかったとしても、永遠にこのループが回り続けることはありません。国民が持つお金の総量には当然限界があり、すでにバブルピーク時には、普通の人が家や株を買える状態ではなくなっていたからです。
バブルは崩壊し、ポジティブループの逆回転が収まるまで20年という月日を要しました。

それともまだ「ポジティブ・シンキング」が足りなうのがいけなかったのでしょうか?
これは冗談ではなくそのように主張している人もたくさんいるのです。
「あなたがうまくいかないのは、やり方がうまくいかないからだ。私が正しい方法を教えましょう」
「まだイメージする力が足りない。もっと強くイメージングしなさい」
そうやって自分の教材やセミナーを売り込みます。
そもそも、そのやりかたでは「いけない」というのは、ポジティブ思考に反さないでしょうか?

明るい未来を信じて、目標を常に忘れない。情熱を持って邁進する。
素晴らしいと思いますし、その重要性を否定する気ももちろんありません。

ただ時には落ち込んだり、ネガティブになったりする。
これも人の自然な感情です。

そういう気持ちもあるから人は人にやさしくなれるのだと考えます。
そういう気持ちもあるから事故などの災から人を守れるのだと思います。

ポジティブな感情、ネガティブな感情。どちらも人間に生まれついたものです。
宗教っぽく言えば、(何度もいうように「ポジティブ・シンキング」「引き寄せの法則」は宗教(キリスト教ニューソート派)の言葉ですので) ネガティブな感情だって神から与えられたもの。
それを否定すること自体に矛盾を感じます。

もし東日本大震災の前に、原子力発電所にも最悪の事故も起こり得るかもしれない、誰かが思ってくれていたら、故郷を奪われた何十万人の苦労は避けられたのでないでしょうか?
もし太平洋戦争回線の前に、すでに中国大陸の戦争で多くの兵力や人材を取られている中で、工業生産力が(当時の)日本の5倍もあるアメリカと戦争をしても勝てないのではないだろうか。と責任者の誰かが思っていたら、数百万人の命は救われたのではないでしょうか?

ポジティブな感情がいいとか悪いとか言いたいのではありません。
「ネガティブな感情は良くない」ということに矛盾を感じているのです。

ネガティブな感情が沸き上がった時、
「ああ、ネガティブな感情が沸き上がってしまった。これではだめだ。私の目標はこのままでは達成できない」
と思うのと
「ネガティブな思いもそりゃ当然ある。だからネガティブな感情が沸き上がっても全然OK。自然に任せてまた頑張ろう」
と思うのは、どちらがポジティブ・シンキングだと考えますか?