世界的に猛威を振るうコロナ禍をきっかけとした社会や経済構造の変化により、様々な分野でビジネスの需要が消失し、多くの企業でビジネスモデルの再構築(リ・デザイン)が求められています。
アクセンチュアのレポートによれば、企業幹部の76%が「劇的な再設計(Dramatically Reengineer)」の必要性を感じていると述べています。

実は難しいビジネスモデルキャンバスの活用

ビジネスモデルのデザインや作り方で役立つツールとして知られているものに、Osterwalderが開発した「ビジネスモデルキャンバス」が有名です。
Osterwalderはもともとオントロジー(概念論)の研究家で、ビジネスモデルキャンバスにもその性格がよく出ています。
したがって、「そのビジネスにどのような要素があるか」「そのビジネスを実行するのにどんなものが必要なのか」ということについて、ビジネスモデルキャンバスではコンパクトにわかりやすく記述することができます。
反面、その要素を基にどのように新しいビジネスモデルを組立て、実行するのかということに関してはうまく記述することができません。

例えば、下図では「子どもたちのために料理をする」という事業モデル(?)をビジネスモデルキャンバスで描いていますが、これを見てどのようなものが必要なのか。「あっ。そういえば、ダイニングテーブル買い忘れたわ!」 という目的(?)にはすぐ使えますが、このモデルを見ただけで、料理を作れるようにはならないですよね?


 

ダイナミックなビジネスモデルを表現するには?

料理を作るというのはビジネスに似ています。つくる人がいて食べてもらう人がいる。そして素材があって、それを食べてもらう人のために加工をする。
そして単にこれらの要素を並べて分類して終わりという静的(スタティック)なモデルではなく、すべての要素の動きをモデル化しなければならない、動的(ダイナミック)なモデルです。

「料理する」をダイナミックなプロセスとして描くと次のようになると思います。

1.家族が今夜食べたいものを把握する。
2.献立を考える。
3.料理をする。(切る、煮る、炒める。)
4.盛り付けをする。

これを、ビジネスモデルのプロセスにすると以下のようになるでしょう。

1.顧客の要望や要求を可視化する。
2.ビジネスの内容・範囲を決める。
3.ビジネスや周りの環境の動き(振る舞い)を明確にする。
4.振る舞いをモデルに割り当てる。

上記のビジネスモデルキャンバスは、2の「ビジネスの内容・範囲を決める」の一部と4の「振る舞いをモデルに割り当てる」をカバーしています。
単純な事業モデルや既存の事業モデルであれば、1と3、あるいは2を考えるのは難しくないかもしれませんが、まだビジネスモデルが固まっていない状態や、新しい市場、新しいやり方にチャレンジするようなときは、プロセスをきちんと踏まえる必要があります。

ビジネスモデリングとシステムモデリング

実はこの1~4のプロセスは、システム開発(システム・モデリング)の標準的なプロセスでもあります。
システム開発というのは、顧客の要望を聞いて、あるいは市場調査をしてそれをシステム、あるいはパッケージソフト(例えばビジネスソフトやゲームソフト)という形で具現化するプロセスをいいます。

システムあるいはソフトウェアは顧客の要望に沿った、あるいはそれを上回る機能を提供する必要がありますし、使う人(ユーザー)の動きや振る舞いを予想しそれらに対応している必要があります。そして複雑な機能であってもユーザーがわかりやすく対応できるようPCの画面やキーボードなどに操作手順が割り当てられている必要があります。

これらはビジネスモデルデザインの要件とほぼ同じであること言えるかと思います。

システムモデリングの手法は、古くはRambaugh、Jacobson、Boochらによるオブジェクト指向の方法論や、それらを統合した統一プロセス(RUP)やUML、それらをシステムズエンニアリング(SE)に拡張したモデルベースエンジニアリングやSysMLなどの手法がありますが、そうした様々な手法の中で、最もシンプルでコンパクトなもののひとつが、1990年代にRosenbergによって考案されたICONIXというやり方です。

ICONIXプロセスは次の4つから構成されていますが、これらは上記の1~4の基礎となった考え方です。

1)ドメインモデル 対象領域を理解する。
2)ユースケース図 システムの要求を目に見える形でまとめ上げる。
3)ロバストネス図 システムの振る舞いを明確化する。
4)シーケンス図  振る舞いをオブジェクトに割り当てる。


 

ICONIXプロセスのビジネスモデルへの応用(ICONIX for Business Design)

私たちは、このICONIXプロセスの考え方を基にして、コンパクトで効果的なビジネスモデル作り方(デザイン)の手法を開発しました。

ビジネスの設計などの現場でもよく使われるバリューグラフやCVCA、因果ループ図などを使い、ICONIXのプロセスに沿って、誰でもビジネスのモデリングが行えるようにしたものです。

この手法については、多くの人の検証も経て、論文の形にして「日本ビジネスモデル学会」で発表しました。
来年発行の学会論文誌に掲載予定ですので、多くの方に使って頂き、日本で多くの新規事業が生まれる一助になれることを望んでいます。

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