共感経営をつくる物語思考

なぜ人は「物語」に感動し共感するのか?
あらためてこの疑問を持ったきっかけは、この春の自粛生活で映画(Amazonプライム)三昧の日々を送っている中で、「なぜ自分は創作とわかっていながら、登場人物に共感して感動しているのだろう」と改めて疑問に思ったからでした。

そして調べている中で、「『物語』こそ『共感』を生む源泉である」ということがわかったのが、「物語思考とユーザーマッピング」の記事を書いたきっかけです。

この週末に久しぶりに本屋に行って気がついたのですが、野中郁次郎先生の新刊がこの5月に発売されていました。
その名もなんと『共感経営 「物語り戦略」で輝く現場』。


 
なんというシンクロニシティ。
もっともこの本のことは知りませんでしたが、野中先生が「物語」に注目していることは、もちろん知っていました。
昨年「The Academia」で行われた入山章栄先生との対談、「理論とデータ分析だけでは、経営学はわからない」で次のように述べられています。

入山 野中先生のSECIモデルによる暗黙知と形式知の往復による知識の創出も、またそれと親和性の高い現象学も、「共感」が原点なのですね。

野中 最近になってわかってきたのは、組織が一体となって動くための戦略は「物語」としてしか表現できないということです。

入山 「物語」とは、企業経営者が語るビジョンのようなものですか。

野中 物語(ナラティブ)は、プロット(筋)とそれを行動につなげるスクリプト(行動規範)で構成されます。ロマンのある筋書きは誰にでも描けるんです。たとえば、技術体系のように分析的な形式知で描けるでしょう。それを実現するために重要なのは、行動基準となるスクリプトです。

京セラには、「京セラフィロソフィ」という行動指針が78項目ありますが、「こういう状況では、こういうアクションを取る」という仕事の型みたいなものが組織的に共有されている企業体は強いんですよ。

(中略)エーザイでは2年に1度、SECIモデルの4つのフェーズを5段階で数値化し、状態を測っています。
業績がいいときは、「E(表出化)」と「I(内面化)」のポイントが高くなるのですが、エーザイCEOの内藤晴夫さんは「S(共同化)」の評価を非常に大事にしていました。これは卓見で、最初に共感のレベルが動くことで、SECIプロセス全体が回っていくんです。

入山 やはり、企業でも最初に「共感」ありきなのですね。

野中 最近でも、アジャイル・スクラムの開発者ジェフ・サザーランドも、「幸福の度合い」を5段階で測定し始めています。ハッピーな人間はパフォーマンスも高いということには疑いがないからです。

私なりにまとめると「企業活動は最初に「共感」から始まる。企業が一体となる戦略は「物語」としてしか表現ができない。それはSECIモデルにも表れており、そしてそれは「幸福経営」にも繋がるものだ。」となるかと思います。

SECIモデルは暗黙知と形式知の循環モデルですが、この暗黙知における「共同化」がまさに「共感」の部分です。
ユングは世界の神話には共通する部分が多いのは、「無意識(潜在意識)での繋がり(いわゆる集合的無意識)」が「物語」として表出化しているからと考え、これはユング心理学の基礎の一つとなっています。


 

物語思考とSECIモデル

話はそれますが、日本を代表するユング心理学者である河合隼雄と親交のあった村上春樹の物語などは、まさに人間の無意識、暗黙知に訴える小説だと思います。
彼は小説を書くとき、「心の地下二階」まで降りていって書くとインタビューで述べていました。地下一階が自分の無意識、そして地下二階が、集合的無意識を指すのだと思います。
だから心身を鍛えないと、闇に引き釣りこまれてしまうのだと。(村上春樹はいわゆる「作家」のイメージと違い、規則正しい生活を行いマラソンレースに出るほど体を鍛えている理由がこのことだそうです。)

まさに彼の小説は、意識と無意識、暗黙知と形式知の境界を描いているのだと思いますし、だからこそ世界中の人から共感されている日本人作家なのでしょう。

私たちが村上春樹の領域にまで達するのは難しいかもしれませんが、「物語思考」を知ることで、その入口くらいまで行くことは十分可能だと思います。

そのためにも、世の中の「課題」を捉え、それを人々に投げかける機能を持つ、(小説や映画を含む)アートを生むための思考「アート思考」と、その課題解決手段をデザインする「デザイン思考」と「物語思考」の関係性について述べてみたいと思います。

物語思考とデザイン思考/アート思考

実は、デザイン思考もアート思考も「共感が基点」と言えるのです。
下図のIDEOフレームワークが示すようにデザイン思考のプロセスにはまず「共感」があります。実はアート思考も同様です。


 
ただデザインとアートでは、そのプロセスが異なります。
デザインはまず「人間(顧客)ありき」ですので、顧客やそのまわりのステークホルダーについてよく調べて、「顧客の持つ想い」に対して「共感」のプロセスがあります。
アートの場合は、社会や自分自身への「問い」つまり「課題に対する自分自身の『想い』」があります。それを表現するのですが、その表現物(作品)に対し、「共感してもらう」というプロセスです。

アートとデザイン
 
そして、その「想い」が「物語」を形作るときに「共感」が生まれるのだと思います。

デザイン思考であれば顧客の物語を描くことで、その課題(顧客の想い)に共感し、その解決のデザインが物語の形で描かれ、アート思考は自分自身の想いが物語として描かれます。そしてその物語に共感した観客(顧客)がそれに触れる。

どちらにせよ「物語」がそのベースにあります。

「物語思考」がどういうものか、そしてそれを形にするプロセスについては「物語思考とユーザーマッピング」について記しましたが、「共感」をどのように物語の形にして、商品やサービスに落とし込むかということについても別途書きたいと考えています。