システム思考=ループ図(因果ループ図)を書くこと。と思っている方が多いと思います。

しかし、なぜシステム思考でループ図を書くのか、その背景を知らないと理解しずらいと思いますので、少し解説してみたいと思います。

ループ図は、もともとMITのジェイ・フォレスターを祖とするシステムダイナミクスから派生したもの、もう少し正確に言うと、定量分析の手法であるストック&フロー図に対して、もっと簡略化した定性分析のツールが因果ループ図(Causal Loop Diagram)です。

システムダイナミクスはもともと軍事用のフィードバック制御の研究をしていたジェイ・フォレスターが民生用、産業用にその技術を応用したものです。
フィードバック制御とは、目標(標的)に向けて自分の位置を絶えず修正し続ける方法です。
飛行機に乗って目的地に行こうと思えば、レーダーで絶えず自分の位置を確認しながら、決められたコースを辿ります。気流などの影響で飛行機がコースを外れれば飛行士は操縦官を操って正しいコースに戻します。
これを自動で行うのがフィードバック制御で、対空砲やミサイル、ロケット技術には欠かせないものです。
そして第二次大戦中にその研究を行い、戦後の冷戦時代に北米防衛システムの設計を行ったのが、ジェイ・フォレスターでした。

ところで、このフィードバック制御というのは、機械だけでなく、自然界、生物界にも広く見られるものです。
私たちは外界の気温の変化にもかかわらず常に36~37度の同じ体温を維持するなど、常に身体を同じ状態に保とうとしています。ウォルター・キャノンによってホメオスタシスと名付けられたこの恒常性も身体のフィードバック制御によるものです。
また、私たちの日常行動、目標に向かって何か行動を起こす時、必ずフィードバック制御をしています。

簡単な事例で、コップに水を汲むという身体行動を考えてみましょう。

システム思考で考えると、コップや蛇口、流水という要素からなる「システム」を目や手でその状態の「情報」を確認しながら「制御」する行為。ということになります。

コップに水を汲むためには、私たちはまずその蛇口をひねります。まずは勢い良く水が流れるままにしますが、そのままですと間もなく水が溢れ出てしまいますので、水位が目標に近づくに連れて、蛇口の開閉度を変えていきます。
蛇口の開閉度が変わると、それに応じた流水量に調整されて、それによって水位が変わります。水位が変わると、認識される(現在の水位と目標水位との間の)乖離幅が変わります。その乖離幅が変わると、(私たちの目がそれを認識すると)蛇口の開閉度が変わり、そして流水量が変わり・・・・
以上を図にすると、下図のようなフィードバックループを描けるでしょう。

ループ図

(ピーター・センゲ著「学習する組織」より)

「流水量」が増え、「現在の水位」はどんどん上昇しますが、そうすると目標水位との「認識される乖離」は小さくなります。(矢印のマイナス(ー)は、『マイナスの影響度を与えている』という意味です)
乖離がゼロになると、蛇口の開閉度もゼロになる。つまりこのフィードバックループの動きもゼロになります。

これがフィードバック制御で、私たちはシステムのこの動きで(半ば無意識に)正しい量の水を汲むことができるのです。

上図のように、想定された目標に向けて制御されたフィードバック・ループを、負のフィードバック・ループまたは、バランス・ループと言います。(図のBはBalanced Loopの略)

弾道ミサイルが目標に届く仕組みも、このフィードバック制御がもっと複雑になっただけです。
目標と現在地の認識される乖離を近づける(ゼロにする)ために、蛇口の開閉と同じように、噴射システムやジャイロスコープなどで、噴射量や方向を調整する。そしてミサイルを目標に向けて飛ばし、現在位置と目標の差の乖離を近づける。さらに・・・・と(バランス型の)フィードバック・ループを回し続けます。

フィードバック・ループは負のフィードバック・ループ(バランス型ループ)だけではなく、自己強化型のフィードバック・ループも存在します。
例えば、物事が成長しているとき、数や量が増加している時、この自己強化型ループが働いています。

ニワトリが卵を産んで、その卵が孵ってヒヨコを経て、親鳥になり、その親鳥がまた卵を産んで・・・・。
そのプロセスを繰り返すと、どんどんニワトリの数が増えていきます。

このようなプロセスは他にも、人口増加、銀行に預けた預金、売上と口コミの増加、街の荒れ具合と犯罪増加など至る所で見ることができます。私たちにとってよいことであれば「好循環」、悪いことであれば「悪循環」と呼ぶこの現象は、社会システムの、正のフィードバック・ループまたは自己強化ループ(Reinforcing Loop)と名付けられています。(図のRは自己強化ループ(Reinforcing Loop)の略)

さて上図のようなニワトリと卵の場合、このフィードバック・ループが永遠に続くと、この世はニワトリだらけということになりますが、実際はそうはなりません。
屠殺されて食卓のおかずになったり、病気で死亡したり、あるいはゲージから逃げ出して車に轢かれてしまったりします。
つまりバランス・ループが働いていて、ニワトリの数を減らすプロセスが存在しています。

バランスループ図

この世界では、自己強化型のフィードバック・ループとバランス型のフィードバック・ループが必ずと行っていいほど存在しています。変化を起こそうとする自己強化ループと、それを抑えようとするバランスループ。その2つの「せめぎあい」で成り立っているといってもいい。

自己強化ループ&バランスループ

私たちが、成長させたい、数を増やしたい(人口を増やしたい、売上を伸ばしたい、お金を増やしたい等)と思えば、その対象をシステムとして捉え、その中で働いている自己強化ループを「強化」する、それだけでなく、バランスループをみつけてそのフィードバック・ループの働きを弱める施策を打つことが大事です。

また逆に公害や環境破壊などの動きを止めるなど「現在の環境を維持」するためには、逆にバランス型フィードバック・ループを強化する。あるいは自己強化ループを弱めることを考えていかなければいけません。

以上のように、ループ図を書くことは、システム思考には欠かせないプロセスです。
システム原型を覚えるなど、どのようにループ図を書くか、ということも大切ですが、システム思考の三本柱である「システム」「情報」「制御」に立ち返って考える姿勢は常に持ち続ける必要があると思います。
そのことによって、適切なループ図を描いたり、そのループ図からその意味を正しく読み取ることが、よりできるようになると考えます。

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