サービス・ドミナント・ロジックは、2004年、スティーブン・バーゴとロバート・ルッシュが「Evolving to a New Dominant Logic for Marketing」(「マーケティングの新しい支配的論理に向けて」)の論文で唱えた新しいマーケティング概念です。

商品の価値は、かつては、モノそのものの価値を主として、それにサービス(例えば店員のサービス)が付随していました。
それに対し、サービスが主で、モノはそれに含まれる要素であるというのが、サービス・ドミナント・ロジックの考え方です。


 
例えば、現在の社会に広がっている「サブスクリプション・ビジネス」などもこのサービス・ドミナント・ロジックがあってこそのビジネスモデルになります。

顧客に一度商品を届けて、お金を貰えばそれで終わりというビジネスモデルから、継続的に顧客にサービスを届ける「月額課金モデル」が最近増えています。

また高い価値を生むモデルもこの「サービス・ドミナント・ロジック」に基づいているものが多いです。例えば一泊数千円の宿も、一泊数十万円の高級ホテルも「一泊の寝る場所」というのは変わりませんが、様々なサービスの違いによって値段が何倍も何十倍も違ったりするわけですね。

またいわゆる「ブランド戦略」もサービス・ドミナント・ロジックの考え方と切っては離せない関係にあります。サービス・ドミナント・ロジックなしでブランド戦略を考えても、独りよがりで誰からも支持されない商品やサービスになってしまうでしょう。


 

サービス・ドミナント・ロジックは顧客と共創するビジネスモデルである。

かつてのモノ中心の考え方で、その商品の価値をあげようと思えば、その商品の性能(スペック)を上げる、様々な機能をつけるという考え方が主流でした。
「うちの商品なら、あんなこともこんなこともできます。」というやり方です。
その結果何が起こったかというと、「競合商品間の不毛な高性能、機能争い」で、もはや誰が使うんだかわからない機能、過剰包装などに象徴される資源の無駄遣い、過剰なサービス争いによる現場の疲弊、それらを原因とするコストアップと生産性の低下です。

一方の「サービス・ドミナント・ロジック」は商品中心ではなく、顧客と共創するモデルです。
自社顧客であっても、決していつまでも同じものを欲し続けるわけではないし、時期によっても状況によっても変わていく。それは今までの自社商品とは違うものなのかもしれない。だから既存顧客向けに商品やサービスのバージョンアップを行ったり、場合によっては「自社商品」にこだわらず、他社の商品や製品と組み合わせるなどして顧客に提供する。顧客と一緒になって「よいサービスを創る」のが「商品中心」の考え方と一番異なる点です。

また「価値」の概念が、所有価値から使用価値へと変わってきたこともあります。

顧客リピート率が8割以上と言われる靴やファッションのオンラインサービスのZapposでは、自分たちの売っているものは「Happiness」であると定義しています。

自社サイトにある「靴」や「洋服」は、その「Happiness」を運ぶための手段に過ぎないというのがこの会社の理念(コア・パーパス)です。だから顧客からの問い合わせで、それが自社の在庫にない場合、躊躇せずに他社の在庫を顧客と一緒に調べるということを行うのです。

「それでは自分の商品が売れなくなってしまうのではないか」というのは今までの「商品中心」の考え方です。
しかしZapposでは、「Happinessを届けるサービス」がコア・パーパスですからそういうふうには考えません。その結果「熱狂的なファン」に支えられ、口コミで顧客は拡がり、広告や値引きといった販促費もかからない構造の企業となり、普通のEコマース企業と比べ高い売上や利益をあげています。

アフター・コロナとサービス・ドミナント・ロジック

今回のコロナ禍では、飲食店や小売店などが営業自粛となり、外出自粛と併せ大きな打撃を与えています。
Eコマースや持ち帰り、宅配などで頑張っているお店も多いと思いますが、「単純に商品を届けるルート」を変えるだけではなかなか今までのような売上にはとても届かないのも事実です。

一方そのような状況でも、様々な工夫やアイデアを形にしてマスコミなどに取り上げられているお店も少なくありません。

・周りの飲食店と一緒になって、それぞれの名物料理を盛り合わせた「1万円弁当」。
・普段からお店で仕入れをしている「こだわりの産直野菜」「築地や豊洲直送の高級魚」「厳選ワイン」などをマルシェ形式で販売。
・コロナ後に利用できる「前払いチケット」の販売。
・Zommで常連の話を聞いたり、お酒の提案をしてくれるバーのマスター。

他にもいろいろあると思いますが、このような工夫のアイデアに共通するものは、単なる「商品の提供」を超えて「サービス」を主体にしている。「サービス・ドミナント・ロジック」の考え方がみについているからこそ様々なアイデアが出るのだと思います。

自分の仕事のアイデンティティを「お客様に美味しいものを提供する」という視点にあるからこそ可能なのだと考えます。

もちろん今は、補助金や緊急融資など資金繰り対処に全力を上げるときかもしれません。しかしコロナの影響は暫く続きます。あるいは「ニューノーマルと言われるようにCOVID-19の影響は大きく社会を変えもう元には戻らない。」(野中郁次郎氏の「緊急提言5/5」)のですから、私たちが変わる以外、生き残ることができないのは確かなことだと思います。

サービス・ドミナント・ロジックを実現するCVCA

サービス・ドミナント・ロジックは、自分の商品だけ、あるいは顧客だけのことを考えてもこの考え方はうまくいきません。
例えば日本には昔から「顧客第一主義」「おもてなし」の思想がありました。これ自体は素晴らしい思想なのですが、得てして過剰サービスやサービス競争に繋がり、サービス業の生産性が上がらないという弊害がありました。

また競争市場の中で自社商品の「強み」を把握し「コア・コンピタンス」を高めて「ブランド」へと繋げていく。この手法もいっとき流行しましたが、これは成功したビジネスモデルの説明にはなっても、この戦略で新たに成功したビジネスモデルがほとんど出ていないのが現実です。

なぜなら、その「強み」や「コア・コンピタンス」はどうやって見つけられるのか。成功して初めて「強み」だの「コア・コンピタンス」や「ブランドの確立」と言えるわけで、これでは「ビジネスの成功の秘訣は、事業がうまくいくことです。」というのとあまり変わりません。

バーゴとルッシュの論文では、「単に顧客志向であることだけではなく、顧客と協力し、顧客から学び、顧客の個々の動的なニーズに適応する」必要性を挙げています。そして「線形のバリューチェーンではなく、自己強化的な「バリューサイクル」の観点から考える。継続的な仮説の生成とテストの過程を繰り返す。」ことで、コア・コンピタンスも獲得することができるとしています。

これはリーン・マネジメントやアジャイルの考え方です。
そうすることにより、初めて「コア・コンピタンス」が意味を持つ。コア・コンピタンスとは、なにか形があるものではなく、無形のプロセスそのものを意味します。

そしてそれを可視化してくれるのが、システム思考です。自社商品や顧客を大きなシステムの要素(論文では「operand」と表現しています。)として考え、そのつながりを表す。つながりが実際にできているか否か、仮説がうまく行っているかどうか可視化できます。
システム思考のメソッドとしては因果ループ図やバリューグラフなども役立ちますが、ここではCVCA(顧客価値連鎖分析)を紹介します。

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CVCAで独自のビジネスモデルを構築する

例えば、どん底だったAppleを立て直し、時価総額世界一の企業に押し上げたiPodやiPhone。
下記のCVCAのように、音楽配信ビジネスの要素としてiPodの位置づけをすることで、顧客、Appleそしてレコード会社で価値循環している仕組みを構築したことがわかります。
そして、この構造をそのままAppStoreで引き継いだiPhoneの躍進で、同社は世界一の会社にまでそのビジネスを伸ばしました。

現在でもこのコロナ禍でiPhoneの販売は打撃を受けているものの、Apple MusicやApple Payなどアプリケーションやサービスの売上を伸ばし、市場の予想を超える収益を上げています。

AppleのCVCA

また、ミシュランも自社商品のタイヤを「ドライブ(というシステム)を楽しむ要素」として捉えたことで、ドライブの行き先としてのホテル・レストランを特集した「ミシュラン・ガイド」を刊行し、今では日本を多くの国で「ミシュランの星」が権威ある評価を得ています。

また、鉄道を「休日のレジャー(というシステム)の一要素」として考えて終着駅にターミナルデパートや宝塚劇場をつくった阪急グループも、その「サービス・ドミナント・ロジック戦略」が100年以上にわたるブランドを築いた基礎になったことも、CVCAで可視化することができます。

ミシュランのCVCA

阪急電鉄のCVCA

コロナ禍もまだ収束の道は見えませんし、これを乗り切ってもまた様々な危機がこれからも私たちを襲うでしょう。是非、サービス・ドミナント・ロジックおよびCVCAを活用して、長く続くビジネスを構築していただきたいと思います。