デザイン思考による課題解決手法

前回、ロジカル・シンキングはコンサルティング業界で生まれた手法であるものの、実際の課題解決にはあまり有効ではないこと。課題解決のためには問題点の構造化の可視化、すなわちシステム思考が必要で、なかでも因果ループ図による課題解決のポイント(レバレッジポイント)について書きました。

システム思考でニューヨークの犯罪を激減させた事例について記したように、問題点の構造がどのようになっていて、それに対してどういった手を打てばよいか、という問いに対しては、システム思考はとても効果的です。

実は課題解決手法には、もうひとつやり方があります。
課題や問題に目を向けてそれを何とかしようとするのではなく、組織(会社)自体をもっと良くする。イノベーションが起こる環境を創造して、新製品を開発、売上を伸ばす。といったアプローチです。

悪いところをなんとかしよう、ではなく良いところを伸ばす。いわゆるポジティブ・アプローチのやり方です。いわば解決しない課題解決手法ともいえるでしょう。
この手法が「デザイン思考」になります。

コンサルタントのためのデザイン思考

「デザイン」とは「設計する」という意味です。良い製品や良い組織を設計することができる思考法(手法)がデザイン思考になります。

コンサルタントが、システム思考と併せてデザイン思考も身に着けることができれば、課題解決のポイントをシステム思考で把握し、それを踏まえつつデザイン思考で良い製品や良い組織を設計することができるようになるでしょう。
それによって、自然と課題も解決できるようになります。具体的に言うと、上記でも述べたポジティブ・アプローチによる課題解決方法です。

具体的には2つのデザイン思考のメソッドがあります。1つはイノベーティブな製品やサービスの開発のためのデザイン思考のメソッド。もうひとつは組織デザインのためのデザイン思考のメソッドです。

イノベーティブな製品開発のためのデザイン思考

近年製品やサービスのサイクルがますます早くなっていることは、おそらく皆が感じていることと思います。またライバル企業も今までは地域や国内企業だけだったのが、街の本屋さんがどんどん閉店を余儀なくされているアマゾン・エフェクトという言葉に象徴されるように、世界中の企業を相手に戦わなければならない時代です。

そういうビジネスの環境下で必要なのは、イノベーション。
イノベーティブな製品やサービスを出すことができない企業はレッドオーシャンの中で、ますます苦しい戦いをしなければなりません。

そういう中、大企業ではデザインやデザイン思考のできる人材が引っ張りだこです。例えばIBMは「世界最大のコンピューターメーカー、システムベンダー」というイメージが強いですが、ここ10年彼らが積極的に採用しているのが、デザイナーやデザイン思考のできる人材です。慶應義塾大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科の私の同期(新卒学生)も複数名がIBMに就職しています。

しかし、中小企業においてはなかなかデザイン思考のスキルを持った人材を採用するのは困難かもしれません。そこで、デザイン思考のスキルを持ったコンサルタントが必要になります。

コンサルタントの役割としては、製品の改良や新製品開発のアドバイザーとして関わる。社員への人材教育(デザイン思考のワークショップの実施など)の2つになるでしょう。

デザイン思考とは
デザイン思考10のメソッド(手法)

組織開発のためのデザイン思考

商品開発など個別ケースに関することをコンサルタントに求められることは決して少なくありませんが、何よりも、「企業組織」に関するコンサルティングがコンサルの案件としては多いのではないでしょうか?
「イノベーティブな組織」「理念の浸透」「組織間の風通し」「社員のやる気の向上」。大小問わず多くの経営者がこのようなことに関する悩みを抱えています。

多くのコンサルタントは2つのアプローチをとっています。1つはロジカルシンキング(論理思考)で、「どこに問題があるか」をレポートする。「〇〇の部署の××が問題である」あるいは「不採算部門の〇〇を切り捨てるべき」といった“アドバイス”を行います。
そしてもうひとつは、「自社(コンサルタント会社)ソリューションの導入」です。ITシステムであったり教育プログラムであったりします。

しかし前回も書いたように、このような方法で抜本的に組織が良くなった、という事例はあまりありません。教育プログラムを受けたが、部署に戻ればまた同じことの繰り返しである。ITシステムを導入したが、余計に業務が増え、生産性はあまり上がらない。という事例も枚挙を問いません。

様々なコンサルティング会社やデザイン会社あるいはITベンダーが、数多くのソリューションを提供していますが、組織学や経営学などアカデミックな場で、エビデンスが取れているメソッドやフレームワークは非常に少ないのが現状です。

「組織開発」の分野でエビデンスがある数少ないメソッドのひとつが「ホール・システム・アプローチ」です。
「ワールドカフェ」「オープンスペーステクノロジー(OST)」「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」の3つが代表的なものです。

特に「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」は組織デザインの場において大きな効力を発揮します。理念やビジョンの浸透には非常に効果的で、「ティール組織」でも「エボリューショナリーパーパス(進化する理念)」にブレークスルーを助ける手法として紹介されており、是非マスターしておきたい手法です。

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)による組織デザイン

コンサルティング業務はデザイン思考そのもの

このように、デザイン思考は、クライアントへのコンサル業務にとても有用なものですが、そもそもコンサルティング業務とは、「デザイン思考」のプロセスそのものということを最後に述べておきたいと思います。

下記のIDEOのデザイン思考のフレームワーク、「観察・共感」、「定義」、「アイデア創出」、「プロトタイプ」、「テスト」は、まさにコンサルティング業務の流れそのものであることが、経験者ならすぐにわかるでしょう。
デザイン思考を身に着けることは、顧客へのサービス向上にも役立つのみならず、コンサルタント自身のスキルアップに直結するものなのです。

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