バリューグラフとは

小手先の改良や工夫ではなく、もっと本質的な革新やイノベーションを行うにはどうすればよいか。
「バリューグラフ」はそのような際にとても役立つデザイン思考のフレームワークです。

このバリューグラフは、スタンフォード大学の元教授で、慶應SDMの立ち上げにも貢献された石井浩介氏の著書「価値づくり設計」(養賢堂)で紹介されました。(同著で紹介された手法では他にCVCA(顧客価値連鎖分析)もよく知られています。)
製品やサービスを起点にして、上位の方向に、「Why(なぜ)」 「そもそも何の目的のためか」を展開していき、下位方向に「How(どうやって)」つまり「具体的にどのように実現するか」を考えていくやり方です。

石井浩介 飯野謙次. 「価値づくり設計」:養賢堂 2008

 
「Why-なぜ-」を連続して考えることで、「この製品がなぜ必要なのか」「何の目的のために存在するのか」を考えることができます。
私たちはこれを「抽象度のコントロール」と呼んでいます。上に行くほど抽象度が上がる、そうすると今まで常識にとらわれていたバイアスを外し、広い視野からその製品や取り巻く環境について捉えることが可能になり、また下方向(「How-どうやって-の方向」)、つまり具体化する方向を考えることで、代替案などを思いつくことも容易になります。

今日のようなSDGs時代、昔のように「いかにして利益を上げるか」だけ考えればよかった時代から変わり、企業の社会的責任や持続可能性を考えた製品やサービスの創出が必要となり、「理念やパーパスに基づいた製品開発」が求められています。

抽象度を上げて、必要性や目的を考えるというのは、企業や事業の理念を考えることと同意であり、理念やパーパスに基づいた製品(サービス)開発を行うことが可能になります。

実際のビジネスモデルをバリューグラフでなるべくシンプルに表してみたいと思います。

ザッポス

顧客が熱狂するネット靴店と言われた米国のラスベガスに本社を構えるザッポス。ザッポスが先鞭をつけた衣料品や靴のEコマース市場に、あの「ディスラプター」アマゾンが挑みましたがザッポスの前に歯が立たず、買収に切り替えたのも有名なエピソードです。

私自身、2012年にこの会社を訪問し、社員が一丸となって理念(コアパーパス)に向かって働くさまを目の当たりにしました。(この体験は「熱狂顧客のつくり方」という本に著しています。)

ザッポスのバリューグラフ

ザッポスのサービスのバリューグラフ

 
このザッポスのコアパーパスである「Delivering Happiness」。自分たちが顧客に届けて(Delivery)いるのはあくまで「Happiness」であり、靴や衣料品はそのための「手段」でしかない。話を伺った社員全員がこのように熱く語る様がとても印象的でした。

ザッポスの製品やサービスもそうですし、365日24時間の電話対応や、返品対応サービス、何時間でも顧客のクレームや相談に乗る顧客サービス、注文した人が不幸にも亡くなってしまった際、期限を超えた商品返品に心地よく応じただけでなく、心温まるお見舞いの手紙が届いたというようなエピソードはすべてこの「Delivering Happiness」が起点となっています。

それを「どうすれば実現できるか」という思想が社内に浸透しているから、そのようなサービスが実現し、それが熱狂的な顧客(もちろん売上を伴って)を生んでいることが、このバリューグラフから読み解けると思います。

バルミューダ

最近スマートフォンの発売でまた評判を呼んだバルミューダ。NHK朝ドラのモデルにもなった、自然の風のようなそよ風を創る扇風機や、今までの概念を変えたトースターなど革新的な製品を創り続けています。


 
創業社長の寺尾玄氏は、家電メーカー出身でもデザイナーでもなく、ロックミュージシャンという異例の経歴の持ち主ですが、アーティストらしく、「どうすれば顧客の人生が良くなるのか」「製品でどのように世界の役に立てるか」ということを常に考えていると、寺尾氏は著書「行こう、どこにもなかった方法で(新潮社)」の中で書いています。

バルミューダのコアは、扇風機やトースターなどの製品の独自技術ですが、もちろん寺尾社長は技術者でもないため、技術起点ではなく「そよ風のような心地よい自然の風はどうすれば再現できるか。」「外側はカリッとして内側はモッチリとした美味しいトーストをどうすれば家庭で食べられるのか」という「ユーザーの生活を良くする」ことが起点で、後から流体力学などを勉強し、「扇風機の2段プロペラ」「水蒸気を発生させるトースター」というアイデアを考え、何度も試行錯誤と試作を重ねてイノベーティブな製品を生み出してきました。

バルミューダのような「デザイン家電」は、「一流デザイナーによるスタイリッシュな外観」とか「高級素材を使った見栄えのするデザイン」というようなイメージを持っている人も多いと思いますが、実際は「ユーザーの生活より良く」もっと言えば、「どう生きるのか」ということを考え、その自己表現手段がこれらの製品であることが、ユーザーの共感を生んでいることをこのバリューグラフは教えてくれると思います。

バルミューダのバリューグラフ

バルミューダ製品のバリューグラフ

  

ボルヴィック1L⇛10Lキャンペーン

上述したように、今はどの企業であれ、社会的責任や持続可能性あるいはESG(環境、社会、ガバナンス)を最大限尊重する必要に迫られています。

そのような中、マイケル・ポーターが唱えたCSV(共通価値の創造)の先鞭をつけたプロジェクトが、ボルヴィックの1L⇛10Lキャンペーンです。

これは2007年から10年間続いたプロジェクトで、ボルヴィックのミネラルウォーターの売上1リットルごとに、ユニセフを通じて、アフリカの、井戸10リットル分の資金が寄付されるというもの。
今までの、利益の一部を社会貢献活動に分配するCSRと違い、社会貢献だけでなく、本業の利益増にも繋がる活動という事業活動のモデルになりました。

消費者から見ると、ボルヴィックを購入することで、自分の喉の乾きを癒し健康に繋がるという欲求(自己欲求)を満たすとともに、アフリカの子どもたちの健康を支援するという他者欲求、貢献欲求も満たされることになります。
そのようなボルヴィックのキャンペーン戦略をバリューグラフで表したのが下図です。

ボルヴィックのバリューグラフ

ボルヴィックキャンペーンのバリューグラフ

 

バリューグラフとCVCAは相互変換できる

バリューグラフのバリュー(価値)とは、そのビジネスを行う事業者(企業)の価値であると同時にステークホルダー(利害関係者)のバリュー(価値)でもあります。

そしてビジネスモデルとは、自社と顧客を含むステークホルダーとの価値交換、あるいは価値循環を考えることである。そのように考えると、実はビジネスは回るようになります。

言い換えると、バリューグラフとCVCA(顧客価値連鎖分析)を相互変換させてながら創ることで、実際に回るビジネスモデルを構築することが可能になります。

バリューグラフからCVCA(WCA)への変換

 
(注)WCA(欲求連鎖分析)は、ステークホルダーの欲求(Wants)を加えたCVCAの拡張フレームワーク。
  
さらにこれをビジネスモデルとして完成させるためには、時間の流れ、例えば製品やサービスの仕込みからその製品やサービスを顧客に届けるまでのビジネスの流れを時系列に捉える必要があります。
ここまでできると、いつ、誰が(誰に対して)、何をするかを「モデリング」をすることができるようになります。

このように一貫して構築できる流れに基づき、さらに変化する環境に対応しながら、アジャイルにデザインするビジネスモデル構築手法が、弊社で開発された「ICONIX for Business Design」です。

昨年この手法について発表した論文が、日本ビジネスモデル学会で採用され、2021年発行の学会誌に掲載されました。

さらに弊社では、AIの機械学習モデルを使って様々なアイデアの収束から今回のビジネスモデルの構築支援までをおこなうイノベーションテック・ツール「Blue Logicをリリースしています。
 
 

ICONIX for Business Design

 
 


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催