ビジネス遺伝子とは?

ビジネス遺伝子(Business GeneあるいはBusiness Meme)とは、「VUCA時代のビジネスは進化論に学べ」で説明したように、リチャード・ドーキンスが定義したミーム(文化遺伝子)の一種です。

上記記事でも述べたように、ビジネスの活動もミームのひとつと捉えることができます。
ドーキンスによれば、ミームは「会話、人々の振る舞い、本、儀式、教育、マスメディア等によって脳から脳へとコピーされる、習慣や技能、物語といった社会、文化を形成する情報」です。
文化の伝達や拡がり、身近なところいえば、ファッションや音楽などの流行の現象もミームの作用です。

ビジネスが顧客に認知され拡散される、すなわち売上を伸ばすというのも、あるいは環境の変化の中で企業やビジネスの生き残りを図るのも、ミームの力が働いていると考えられます。

ただ一般的な文化や流行とビジネス活動は、違う部分も多いので、ミーム(文化遺伝子)と区別して、いわばビーム(ビジネス遺伝子)を考えようというのが、この記事の趣旨です。

ビジネス遺伝子を働かせる(ONにする)ことで、現代のような環境変化の中で、どのようにすれば生き残ることができるのか。
子孫を増やす、あるいは文化が拡散し流行するように、どのように自社の製品やサービスを世の中に拡げることができるのか。
これらをこのビジネス遺伝子(ビーム)を意識する(ONにする)ことで、実現に近づけることができると思います。

私たちは誰もが遺伝子を持ち、それをONにすることで今まで生き残ってきたわけですから、ビジネスのシーンにおいても、だれもがその力を活用することが可能だと思うのです。

遺伝子の本質はフィードバック構造

私たちが普通のモノ(物質)と違い「いのち」を持っているのは何か。これこそが「遺伝子(DNA、RNA)がある」ということですが、その本質は「フィードバック構造」であると言うことができると思います。

世の中のあらゆる物質は、何らかの作用で「合成」され、それが最後には「分解」されます。「形あるものはいずれ壊れる」「有為無常」などとも言いますね。

ビジネスでも、製品やサービスあるいはプロジェクトの「ライフサイクル」を考えますが、これも企画から始まって、製品化(製造)、利用を経て最後に破棄までのプロセスがあります。

一方の「生命」は、これがフィードバック構造(円環構造)になっているのが、他の「物質」と異なる点であると言えるでしょう。

「生物と無生物のあいだ」(講談社)の著作で知られる生物学者の福岡伸一氏の有名な「動的平衡論」の図などはそのことをうまく表しています。

動的平衡論

 
動的平衡論によれば、この円環(フィードバック)構造が働いているおかげで、重力に逆らって坂を登るように、エントロピー増大(=時の流れ)の環境の中、秩序(生命体)を維持し続けることができます。
そして、このフィードバック構造が崩れることが「死」を意味します。 

もっと具体的なレベルで言うと、私たち生物のもっとも基本的な活動である、細胞内の代謝活動であるクエン酸回路(Krebs Cycle)も下図のように円環構造(フィードバック構造)となっています。合成と分解を続けていく構造、すなわち代謝(新陳代謝)が自律的に行われているのが、「生命の仕組み」であるといっても良いと思います

クエン酸回路(Krebs cycle):Wikipediaより

もちろん、個別の生体だけでなく、地球に住むあらゆる生物は生態系の大きなフィードバック構造(円環構造)の一部を構成しています。私たち人類ももちろん例外ではありませんよね。

生態系

 
 

ミームもフィードバック構造

以上のことは、文化遺伝子であるミームも同様です。下図はミームの構造を最もシンプルに表した図です。

ミームの基本構造

  
  
A(情報の発信者)からB(受信者)に情報を発信する。それに対してBが何らかの反応を示す。
これがミーム構造の基本です。わかりやすい例は、対話やコミュニケーションの構造です。

講演や講義のように、発信者が一方的に話す場合も同様です。
テレビやラジオあるいは雑誌やインターネット媒体のように、この反応が直接発信者に届かない場合もありますが、それでも視聴率やアクセス数、販売数などの数字、あるいは「評判」のように、何らかの形で反応を得ることができます。

誰もいない世界でも言葉を発することは可能ですが、そういうのを続けることは困難ですよね。誰かが聞いてくれる、情報を受け取ってくれるという確信があればこそ、私たちは話したり、物を書いたりといった「表現する」ことができるのだと思います。

文化というレベルでなくても、人間関係の問題で物事がうまくいかない、相手との関係がうまく構築できないというのは、たいていこのフィードバック構造がうまく働かないことに起因します。
お互い情報を発するだけで、相手の言うことに反応しない。相手の反応を無視したり読み違ったりする。情報が一方通行になっていて、フィードバックになっていないことが、とても多いのではないでしょうか。

ビジネス遺伝子をONにするには

上述したようにビジネスで、商品やサービスの販売、あるいはブランドの浸透、社内でのコミュニケーションやパーパスの浸透など企業活動でもミームは働いているわけですが、このビジネス遺伝子(ビーム)の構造も同じく、フィードバック構造(円環構造)になるわけです。

最もシンプルな形は、ミームと同じく下図のようになります。

ビジネス遺伝子(ビーム)の基本構造

    

もう少し複雑なビジネス構造、例えば広告ビジネスのようなスキームでも同じです。

  
逆の言い方をすれば、このようなフィードバック構造を構築することが、ビジネス遺伝子をONにすることに他ならないということです。

そういう意味でも、因果ループ図CVCA(顧客価値連鎖分析)といったシステム思考の手法を学ぶことで、ビジネス遺伝子をONにする方法をつかむことができます。

アップルのCVCA


 
 

システム思考と生命の仕組み

元々システム思考は、生命の仕組みを解くために、機械論や生気論に変わるものとして理論生物学者のルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィにより提唱されたものです。
彼の「一般システム理論」が世に出た1945年頃は、まだワトソンやクリックが、DNAのらせん構造を発見する前でした。

その後、システム思考は生物学のほか、軍事やビジネスにも応用されていったのはご存知のとおりです。
その基本は、フィードバック構造、円環構造であるというのは、これまで書いてきた通りもうおわかりのことと思います。
誘導弾に掲載されるジャイロスコープなどの軍事技術に応用された「サイバネティクス」は、動き回る目標(敵機)や現在地、即ち環境変化に対し、正しく目標に到達するため、ホメオスタシス(生命体の恒常性維持機能)の原理を応用したものです。


 
 
また、アート思考の解説で触れた、アート、サイエンス、テクノロジー(システム)、デザインの円環である「Krebs Cycle for Creativity」は、上記のクエン酸サイクルのアナロジーです。
フィードバック構造、円環構造を意識する(ビジネス遺伝子をONにする)ことは、ビジネスのオペレーションだけでなく、イノベーションや創造性にとっても重要なことであると言えるでしょう。

また、「変化への対応」ということで注目されている「アジャイル」も、ウォーターホールモデルのような一方通行型ではなく、フィードバック構造になっているといことが、変化への「アジャイルな」対応ができる理由であることももうおわかりですよね。

ウォーターホールモデルとアジャイルモデル


日本能率協会主催「アート思考入門セミナー」