AI人材がこれからの企業経営を左右する

今月号(21年9月号)のハーバード・ビジネス・レビューは、「マーケティングにAIを実装する」ですが、今やAI(人工知能)は、研究・開発の段階を超え「利用」のフェーズに入っているのはご存知のとおりです。


 
非エンジニア、そして経営者自身もAI(人工知能)に対する知識が必要な時代となりました。
AI人材というと、AIエンジニアやデータサイエンティストが挙げられますが、これからは、AI技術をもとにマーケティング戦略を策定したり、経営に活かす非エンジニアの「AI人材」がますます求められると思います。
 
その関心の高さを表すように、この7月に行われた「ディープラーニング検定(General)」の受験者が7千名に昇ったり、「AIセミナー」なども各地で開催されているようです。

本屋さんなどでもAIや人工知能、ディープラーニングに関する書籍が目に付きます。
しかしながら、これらの本のほとんどが、エンジニア向けか、あるいは一般教養向けのどちらかのようです。(ビジネスパースン向けと銘打たれている本も含めて。)

AIの仕組みを理解するのは、線形代数や微分などの数学の知識、そして実装するにはpythonなどのプログラミング知識が必要といわれています。
このあたりが、一般のビジネスパースン、あるいは経営者にとって敷居の高さを感じさせるところでしょう。もちろん数学やプログラムを使わずにAIの解説している本も多いのですが、とたんに、「たくさんのデータを機械に学習させる」レベルの説明で終わってしまい、これでは具体的なイメージが湧きません。
その程度の知識基盤の上に、CNNだのRNNだの言われても、「わかったつもりになる」のが精一杯ではないでしょうか?
こういう本をいくら読んでも、あるいは話を聞いても、「AI人材」になることは難しいと思います。

よその会社がすでにやっていることを真似てAIを導入するぶんには、それでもいいのかもしれませんが、経営者やビジネス担当がこれでは、本来のDXの形である「自社の強みや独自性(他社との差別化)をデジタルで実現する」ことは難しいです。そもそも「他社の成功事例を真似て」といった横並び意識の経営が行き詰まっていることが、今の日本経済の失墜の主原因であることは、皆様もご承知かと思います。

今のような激動の波の中で生き残るためには、他社にない独自のビジネスモデル、つまり「仕組み」をデジタルで実現することが必須で、この絵を描くのがまさにDXにおいて経営者に求められていることですが、これはAIに関わる点においても同じ。

そういう意味で経営者を含む非エンジニアのビジネスパースンがAIを理解し「AI人材となる」ことは、これからの経営や人事戦略においても重要なことだと考えます。

では、非エンジニアがAIを理解する場合でも、数式やプログラムが必須なのかというと、必ずしもそうではありません。AIの仕組みを理解するもう一つの方法として、「計算グラフ」があります。

計算グラフとは

計算グラフとは、計算の過程をグラフで表したものです。ディープラーニングを既に学んだ方であれば「誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)」と一緒に覚えている方も多いと思いますが、この計算グラフは、PFNが開発したChainerやTensorFlowなどに代表されるディープラーニングのフレームワークの基盤となっており、AI、特にディープラーニングの仕組み上で、欠かせないものとなっています。

ここでは簡単な計算を計算グラフで表してみます。

問題:あなたは果物屋さんで、りんご(単価200円)を4個、みかん(100円)2個を購入し、店主に消費税(8%)を加えて支払った。合計いくらになるでしょうか?


 
計算グラフで表すとこのようになります。

ここにある要素はりんご、みかん、個数、消費税率だけですが、計算グラフが面白いのは、どんなに要素の数が増えようが、複雑な計算だろうが、基本はこの図にあるような形で表すことができることです。買い物かごの計算も、経営シミュレーションも、地球全体のシミュレーションも結局は同じ原理です。
またAIが得意な画像解析も、コンピュータは画像データを数値(例えば赤は[255,0,0]というベクトルで表せる)で持っていますので、同じように「計算」ができます。

ディープラーニングというと、下図のような形で説明されることはご存知だと思いますが、これも要は上図で示したような計算グラフの概念を表した図と言って良いと思います。

 

AI(機械学習)と電子計算の違い

もちろん、この計算グラフの仕組みは、電卓などのいわゆるコンピュータの計算(電子計算)では普通に行われています。AIが、それとは違う部分が、上でも少し触れた誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)です。

買い物のシーンに再び戻って、適当に商品を買い物かごに放り込んで、だいたい1000円ぐらいと予想していたけど、レジで計算したら1500円だった、というようなケースを考えます。

予想と実際の支払った金額が違った場合、スーパーやコンビニならレシートを見て確認するでしょうが、商店とかでレシートがない場合ならどうするか。その場合、予想合計金額と実際支払った正しい金額の差異から、どれくらい「誤差」があったのか計算しますよね?

AIも同じことをします。そうやって単価を修正して計算し直して、そのデータと正しいデータを再び比較し、まだ誤差があれば再びさかのぼって単価を修正する。これを何度も(何千、何万回も)繰り返すことで、誤差を最小限にする。
これが機械「学習」の仕組みです。


 

システム思考(システムダイナミクス)で表すAIの仕組み

つまり、機械学習とは、順伝播と逆伝播の繰り返し、言葉を変えると、フィードフォワードとフィードバックの繰り返しによって、誤差を自動的に少なくしていく仕組みです。

そしてこれは因果ループなどシステム思考と同じ。

上図の計算グラフを、因果関係の流れと捉えれば、システムダイナミクスの図と変わりません。実際、機械学習の仕組みもシステム思考で描くことができます。

下図は、最初の予想金額(200円)と実際の金額(300円)の誤差(ギャップ)を修正していく過程をシステムダイナミクス(ストック&フロー図)で表したものです。「学習」によって、正しい金額に修正されていく様子がシミュレーションされています。

 
この図を一般におなじみの因果ループ図で描くこともできます。


 

課題解決ができるAI人材の育成のために

もちろん、実際のAIは、要素数も計算過程もはるかに複雑ですが、原理は変わりません。
システム思考を理解することで、AIや機械学習の動きも理解することができます。
そして、Aiとシステム思考を理解することで、同時にAIとビジネスを結びつけることができる人材を生むことができると思います。

またAIの仕組みをシステム思考で捉えることは、今問題になっている「AIのブラックボックス化」「説明可能なAI」の解決にも役立つのではないでしょうか。

これは言葉を変えると、システム思考を通じてAIを理解するのは、単に数学やプログラミングが苦手な人のためというばかりでなく、特に経営者やマーケッターなどにとって、AIのブラックボックスの中身を理解することにも繋がり、そうすれば、AIに関するトラブルの対処や、あるいはAIを活用した新たなビジネスの開発も可能になってくると考えます。

当ブログで何度も説明しているように、システム思考は課題解決手法として活用できる思考法、手法ですので、システム思考を通じてAIを捉えるのは、経営課題などを「AIを活用して課題解決を行う」ことが期待でき、「AI人材の育成」にも役立つでしょう。

なお、今回の事例は、AIの中でも「教師あり学習」と呼ばれる分野に絞って解説しました。「教師データ」と呼ばれるデータを大量に用意し、「正解」にどうやって近づけるかのパターンを学ぶのがこの「教師あり学習」です。顔認証や手書き文字読み取り、病気の発見など医療分野で注目される「画像解析」、翻訳や文書作成などの「言語処理」がおなじみです。
因果ループでいうと上図のような、バランスループが描かれます。

その他の機械学習として、ゲームや自動運転などで活用される「強化学習」もあります。「強化学習」では、強化したい部分、成長させたい部分を伸ばしていく学習を行います。ここでは、ギャップ(誤差)をなくしていくのではなく、逆に広げていく、大きくしていく仕組みを持っています。
因果ループ図でいえば、自己強化ループです
売上を伸ばす、ビジネスを拡張するために活用できるAIはこちらになります。

amazon創業時にジェフ・ベゾスが紙ナプキンに描いた因果ループ図はもうおなじみですね。

アマゾン戦略1

最近言われている、「ハーベストループ」は、まさに「強化学習」を「因果ループ図(自己強化ループ)」で表したものにほかなりません。